第3話 チート、開花
「私たちの対決……それは一旦中止させるしかないだろう。そんな当然の事に、一々他人の解答を求めるのかい?」
フィゼリア、というのは恐らく黒髪の彼女の名前だろう。
フィゼリアから挑発的な言い方をされたスケバン娘の顔に更なる苛立ちが浮かぶのが分かった。このスケバン娘は何ていう名前なんだろうか。
「はァ!? 『灼熱鉱山』の二つ名を持つこのアタシ、アシュロ・オーバーヒータに受けたタイマンにケリを付けないまま終わらせろっていうのかよ! 一度溢れ出ちまったマグマをこのまま収められるわけねーだろうがよぉ!」
あ、名乗ってくれた。フルネームで。しかも二つ名まで。
「そうは言っても、このまま私とあなたが戦って、どちらかが倒れたとして、『魔炎闘技』の勝敗に正確に反映されるか疑わしいだろう。これは既にいつもの『魔炎闘技』ではない。イレギュラーなものになってしまっているんだよ。彼女によってね」
フィゼリアはわたしの方を示して言った。
「そっかよ……だったらまず、そのイレギュラーを排除すりゃいいんじゃねえか?」
とアシュロが言って、わたしの方を見た。
「なあガキ。てめえはアタシとこのクソ女の真剣勝負に水を差したんだよ」
ガキって言うけれど、そっちの方が身長低いしガキっぽくない? ――という言葉は呑み込んだ。
「意図的ではなかったにしろ、許される事じゃねえんだよ、そりゃあ……!」
そう告げたアシュロの右の手の平。
そこから炎が生じる。
いや、違う。そこから生まれたのは赤く発光する円柱の形状の物質だった。炎はその物質から生じているに過ぎない。
「――【
アシュロが告げた。
『出たーっ! 【
1500度? 沸騰して100度になった水でさえ触れれば火傷するのに、そんな温度にまで加熱された鋼に触れれば、ひとたまりもないだろう。
「だから悪ぃが、ツケだと思って――死なねえ程度にくたばっててくれ」
そう言ってアシュロは振りかぶった。その鋼の棒をこちらに投げ付けようとしていた。
「死なない程度に、って死ぬって! そんなの投げ付けられたら!」
「死なねーよ! てめえも『魔炎闘技』の参加者になってんならな!」
アシュロの手から鋼の棒が離れた。
それはくるくると回りながらこちらへと迫る。
すぐに、目と鼻の距離に。
まずい――そう思った時。
鮮やかな光が生まれた。
そして、わたしの方に真っ直ぐに向かって来ていた燃え盛る鋼の棒の軌道が逸れた。
「なッ――」
鋼の棒の軌道が切り替わった場所。
そこには、一輪の花が咲いて浮いていた。
「え……?」
アシュロは自分の攻撃が謎の花によって退けられた事に驚いていたし、わたしも驚いていた。
この花。わたしが生み出したものだという奇妙な確信があった。
「何を、しやがったッ……!」
問い掛けるアシュロ。花は散って消えてしまう。
しかし、私は答えに至った。
「分かった! チートだ!」
「はあ?」
アシュロは私の言葉を理解出来なかったようだった。
異世界転移。
それをした者がチートを獲得するというのはお決まりの事だ。それと同様に私も何らかのチートを獲得したのだろう。そして、彼女の攻撃を防いだ。
「わけの分かんねえ事を!」
アシュロが右手をこちらに向けた。
次の攻撃が来る。
わたしは意識を集中させた。すると、自分の中に力の存在を感じる事が出来た。先ほどは無意識的に発動したけれど、今度は意識して発動する事が出来る筈。
わたしはその
「――【
「鋼の雨を食らいやがれっ!」
アシュロは手から鋼を発生させた。ただし今回は先ほどとは違う。
それは、灼熱の弾丸だった。小さな鋼が射出され、こちらへ凄まじい速度で飛んできた。一発ではない。マシンガンのように、幾つもの弾丸がこちらに迫り来る。
「――【
先ほどと同様に、わたしの前方に鮮やかな光が生じる。
そして、それが形を作る。
花。
ただし、その大きさはわたしの背丈と同程度。
淡い紫色。そして刺々しい形状の花だった。
それがわたしへと襲い掛かった灼熱の弾丸を全て弾いた。弾かれた弾丸は例えば地面にめり込み、観客席の方へ向かったものは、不可視の壁に阻まれて破裂し、眩い光を発した。恐らく戦闘スペースと観客席の間には観客を守る為の結界のようなものが張られているのだろう。
「何だッ、それは……!」
驚愕の表情を浮かべるアシュロ。
わたしは笑みを作って告げる。
「――薊の花言葉は『触れないで』。
あなたの攻撃は、わたしに触れる事が出来ない」
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