第2話 知ってる!これって異世界転移でしょ!
「おわあっ!?」
誰かの
わたしは身体に若干の鈍痛を覚えていた。そして、先ほどまで浮遊感を覚えていたのに、それが無くなっている。重力を感じる。
「何が……」
わたしの視界に映ったのは茶色い土。そこに手をつくと、ひんやりとした冷たさを感じた。
それから身体を起こす。
目に入ったのは、一人の少女。
赤い毛を長いおさげにしている小柄な少女だった。彼女は驚いたような表情でこちらを見ている。
特徴的なのは彼女の纏っている服。学校の制服のようだけれど、日本の学校の制服という感じではない。なんだか、やけにゴテゴテしているというか、コスプレっぽいというか。
異世界ファンタジーものに出てきそうな感じというか――。
けれど彼女はスカートの丈を足の辺りまで伸ばしていて、それがスケバンみたいだった。
『おーっとお! 一体何が起こったのか! 両者とも急に動きを止めたー! んー? いや、人だ! 人が現れた! 闘技場内に対戦者二人以外の人が! 三人目の人間が現れたみたいだぞ!』
不意に聞こえたその大きな声は拡声器を通しているみたいだった。
わたしはそれから周りを見渡す。
わたしの下にある地面は真っ平で、それを円状に壁が囲っている。
いや、壁ではない。観客席だ。座席があって、そこに沢山の人の姿が見える。
わたしが今居るのはコロッセオを彷彿とさせる闘技場だった。
「これはこれは。不思議な事もあるものだね」
その声の方を見れば、そちらには黒髪の少女が居た。私から見ると丁度スケバン娘と正反対の位置だ。
「なっ……」
その黒髪の少女は右手に大きな槍を持っていた。
だがそれはただの槍ではない。
その槍は氷で出来ていた。
感覚を研ぎ澄ませてみれば、その氷が放つ冷気が若干感じ取れる。
今の状況は色々と現実離れしているが、それが最も現実離れしているものだった。氷で作った槍なんて、有り得ない。もし有り得るとすれば――。
わたしが思考している間に、その氷の槍は幾つもの淡い水色の光の粒と化し、消滅した。
ただの氷では絶対に有り得ない挙動だ。
魔法。
わたしの脳裏にそんな単語が浮かんだ。
そして、わたしの脳は今の状況を分析し、答えを弾き出す。
わたしはある時、不意に漆黒に落ちて行って、気付けば見知らぬ場所に居た。そして、そこには魔法らしきものの存在がある。
「――つまり、異世界転移だ!」
わたしは真犯人を名指しした名探偵のような気分になった。
今までに培ったオタク知識を総動員すれば、その事実を導き出すのは容易い事だった。わたしが落ちた謎の漆黒は異世界への転移門だったというわけだ。
そしてその事をすんなりと受け入れる事が出来たのも、日頃からアニメを見まくったりWeb小説を読み漁ったりといったオタク活動をしていたお陰だ。今日び異世界転移なんてみんなしているじゃないか。遂にわたしの番が来たというだけだ。
そう――見知らぬ美少女に唐突に自分が「運命の人」だなんて言われるより、よっぽど条理に則っている。
しかし単に異世界転移をしたというわけではなく、異世界にある闘技場に転移をしてしまったみたいだ。スケバン娘と黒髪の少女。二人が向かい合っている所から察するに、今はこの二人の決闘の最中で、そこにわたしが闖入してしまったというわけか。だとすると、なんだかめんどくさそうな状況だな。穏便にこの場を抜け出すにはどうしたら良いだろうか。
『しかし、一体どういう事なんだ!? 「魔炎闘技」中に第三者が闘技場の中に入るなんて! 「魔炎闘技」が始まったら、それが終了するまで開始時の参加者以外はどうやっても中には入れない筈! もし強引に入ったならば、そもそも「魔炎闘技」は中断されてしまう! それなのに謎の少女は中に入って、しかし「魔炎闘技」は中断されていない!
――解説のロティカ先生、何か分かりますか!?」
『そうね……』
続いて聞こえて来た声は別の人間のものだった。まさか、実況と解説がいるのか。
『……私たちには考慮すべき沢山の疑問があるわ。彼女はどういう理屈で中に侵入したのか。侵入したというか突然現れたように見えたけれど、それがどういう現象なのか、あの少女はこの学院の生徒ではないようだけれど、一体誰なのか。そういった様々な要素を多角的に考え、そして結論を導き出した結果――何もかも分からないという結果に落ち着いたわ』
『絶妙に知的な感じの語り方をしておいて、何も分からないという無能っぷりだー!』
『ただ一つ言えるとすれば――「リボンの付いた薄いピンク色」だったという事ね』
リボンの付いた薄いピンク色? どういう事だ? そういえば今日履いていたパンツは――。
「見っ、見たなっ! お、乙女の聖域を!」
わたしは顔の温度が上がるのを感じながら、慌ててスカートを押さえた。わたしの今日のパンツの事をこんな大音量で言いやがったやつはどこに居るんだ! ここからだと分からない! 声はスピーカー的な感じで発されているから声のする方向も分からないし!
「――んなこたァどうでもいいだろうがよぉーッ」
ドスのきいた声が聞こえて、そちらを見る。スケバンの少女だった。
「アタシとフィゼリアのタイマンはどうなんだよ! あァ!?」
スケバン娘は剣幕を浮かべ、言った。
彼女の右手からは彼女のその怒りが具現化したかのような炎が生じていた。
どうやらこのスケバン娘は炎系の魔法が使えるみたいだった。
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