第2話 ブーニー・スラム 【アクータ塔】

 俺は、張り紙をひったくった。

 

「場所は、【アクータ塔】と。【ブーニー・スラム】か」


 もともとは、帝国の領土にあった砦だったらしい。


 しかし、そこを統治していた辺境伯が死に、砦としては機能していない。今では悪党がタムロする、アンタッチャブルな無法地帯になっている。


 国の境目としての役割を失ったため、どの国の法律も通じない。一応どの通貨も使えるが、物々交換が基本なのだとか。


 なんでも捨てられるため、スラム化したという。


 そのため、世間では「田舎のブーニースラム」と呼ばれている。


「そこを管理しているのは……『ヒナ王女』だと!?」


 勇者【キサラギ】の、姪ではないか。


 ヒナ王女はその土地を再生させるためという体で、廃墟に単身乗り込んでいったという。


「よく生きていたな」


 おおかた、「護衛をしてください」ってところだろうな。


「報酬がうまいな」


 基本は、三食と昼寝つき。なにもしなくても、最低保証の給料がもらえる。


 ベーシックインカムじゃん。不労所得バンザイ。

 魔王城の門番って、仕事にならないときのほうが多かった。そのため、給料天引きが多かったんだよなー。

 その不満が、魔王見殺しの動機だとか、因縁をつけられたわけで。


 ここの門番なら、仕事には困らないはずだ。

 なんたって、勇者の姪がいる土地である。ヒナ王女の命を狙うヤツらは多いに違いない。


 仕事はハードだろうが、どうにかなるだろう。


「いたぞ! 黒騎士だ!」


 冒険者風の集団が、俺を指さしている。


「こんな町中で、見つかるとは!?」


 さては、冒険者を雇ったか。魔物は、街に入れないからな。


「待て、黒騎士セルバンデス!」


「こんな往来でのチャンバラは、ご法度のはずだが」


「おうよ! だから腕ずくで捕まえる」


「やれるもんなら、やってみろ! 【チェーン・ライトニング・スピア】!」


 俺は竜の角から、黒雷を呼び出した。


「卑怯な!」


「バーカ! 逃げる手段に卑怯もクソもあるか!」


 戦う姿勢を見せず、俺はトンズラをかます。長い竜の角を、魔法のホウキ代わりにして。


 こんなヤツら、相手をしている場合じゃない。とっととスタコラサッサだ。早く、アクータ塔へいきましょー。


 といっても、アークタ塔はすぐ近くなんだよな。


 さて、俺はアクータ塔を見たことがない。というか、外の世界自体がほぼ初めてのようなものだ。


 俺は門番生活が長すぎて、世情に疎い。


 街に滞在して、世間慣れをしておこうと思っていたのに。


「アレか。砦……だよな?」


 俺の視界に広がっているのは、バカでかい塔だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る