失業暗黒騎士、勇者の姪である姫が作った街の門番に転職するも、姫様のほうが明らかに強い

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

第一章 元・魔王四天王 シモン・セルバンデスの苦悩

第1話 暗黒騎士、追放される

「シモン・セルバンデス! お前を魔王殺害の罪で追放する!」


 魔界の審問官が、俺の罪状を読み上げた。

 

「バカな!? 俺は殺していない! どうして、雇い主を殺さなければならん!?」


「雇い主を守れなかった時点で、お前の死は決定しておるのだ!」


「俺は止めたのに、アイツが勝手に突っ走ったんだろうが!」


「それでも魔王様をお守りするのが、お前の務めだっただろうが! 大人しく縛につけ!」


 審問官の部下であるスケルトンが、俺を鎖で縛りだす。

 

「横暴だ! ちゃんと調べろや! まだ勇者は、残党狩りをやめてない! 今は、魔王配下同士で争ってる場合じゃないだろ! 国家の建て直しが優先だ!」


 鎖に手を繋がれながら、俺は反論する。


「その立て直しに、お前は邪魔なんだ! お前は魔物当たりがいいから、慕われすぎている! 次期魔王はお前しかいない、って世間は見ているぞ!」


 なんつー理屈だ。どいつもこいつも、ふざけやがって。よってたかって、俺をお払い箱にする気か。


 たしかに俺は、四天王の一人に抜擢されたくらいだから、それなりに強いだろう。


 しかし、追い出すことはなくない? いくら、自分たちの地位が危ういからってさあ。


「お前らもなんか言えや!」


 残りの四天王共に、話を振る。


 しかし、さも当然であるという風で、俺に視線を向けようともしない。


 コイツら、全員グルかよ。


 魔王謀殺も、四天王の誰かが仕組んだみたいだな。


「ふ、ふざけやがってえっ!」


 俺は、鎖を引きちぎった。この程度のチェーンで、俺を縛れると思うなよ。


「ホンモノのチェーンってのは、こうやるんだ【チェーン・ライトニング・スピア】!」


 手から俺は黒雷を呼び出し、スケルトン共を粉々にした。


「よっと!」

 

 俺は、呼び出した黒い稲妻の上に乗る。四天王さえ追いかけられない速度で、その場から逃げ出した。速度に関しては、俺が誰よりも上なんだよね。


「暗黒騎士が、逃げたぞ!」


 背後で、審問官の声がした。


 さっき壊したスケルトンも、復活する。


 俺のチェーンライトニングスピアは、誰も殺せない。めっちゃ攻撃速度が速い代わりに、殺傷能力をオミットしているのだ。

 

「追え! 生死は問わん! 探せ!」

 

「うるせえ! できるもんならやってみろ!」


 城下町の路地を、俺は黒雷に乗りながらすり抜けていく。


「騎士さまー、鬼ごっこ?」


 オーガ族の子どもが、俺に声を掛けてきた。

 

「そんなところだ。俺が逃げてるのは内緒な」


「わかったー」

 

 鬼族の子に手を振られながら、俺は城の領地を抜ける。


 入り組んだ森を、黒雷でカクカクと移動していった。


 移動している方角は、放出している黒雷の魔力でバレてしまう。


 だが、見つかるよりはマシだ。


 これまで門番として、気楽にやってきた。


 勇者さえ来なければ、安心の老後を迎えられるはずだったんだけどなあ。


 魔王が前のめりな性格のせいで、失業とは。

 

 あーあ。門番って、失業保険出るのかなぁ。

 


「おっと、人間の街だ」


 擬態しなければ。


 その辺にいる普通の町人に、俺は変装した。


 門番に尋ねられて、冒険者だと告げる。


 同じ門番だった身だ。慣れたものである。


「ん?」


 俺は街で、奇妙な張り紙を見つけた。目立たない路地に張られていて、魔力保護までされているではないか。これを見つけ出せることが、試練のような。


「門番募集?」

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