第44話 夷神と戎神
褻比夷市の一の宮。ご神木の隣の木の枝に夷神が乗っている。境内を見回した後、見上げた。何を見ているのかはその眼差しからは窺えない。風に揺れる葉かもしれないし、木々をすり抜ける鳥かもしれないし、わずかに見える空の様子かもしれない。
「それで……」
ご神木の枝――夷神が乗っている枝と同じ高さの枝――に、戎神が乗っていた。その声に見上げていた顔を向ける。
「それでこれからどうするのだ?」
「どうするも、こうするもやらねばならんだろ」
「そうだな。人は梅雨明けが遅いと言うかもしれんな。雨で褻比夷市を清めているとも知らずにナ」
「知る者もいるだろう。あれだけのことがあったのだからな」
「そうだな。それからどうする」
「どうしようか。しかし、凪が穏やかになるように努めるよ」
「そうか」
そう言うと夷神は消え、それを見届けてから戎神も消えた。
小さな鳥のさえずりが境内にこだましていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます