第44話 夷神と戎神

 褻比夷市の一の宮。ご神木の隣の木の枝に夷神が乗っている。境内を見回した後、見上げた。何を見ているのかはその眼差しからは窺えない。風に揺れる葉かもしれないし、木々をすり抜ける鳥かもしれないし、わずかに見える空の様子かもしれない。

「それで……」

 ご神木の枝――夷神が乗っている枝と同じ高さの枝――に、戎神が乗っていた。その声に見上げていた顔を向ける。

「それでこれからどうするのだ?」

「どうするも、こうするもやらねばならんだろ」

「そうだな。人は梅雨明けが遅いと言うかもしれんな。雨で褻比夷市を清めているとも知らずにナ」

「知る者もいるだろう。あれだけのことがあったのだからな」

「そうだな。それからどうする」

「どうしようか。しかし、凪が穏やかになるように努めるよ」

「そうか」

 そう言うと夷神は消え、それを見届けてから戎神も消えた。

 小さな鳥のさえずりが境内にこだましていた。

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