第43話 霊獣と話す長木

 門野は呼吸器を外されていた。すっかり心地よさそうな寝顔でいる。

「早く起きなさいよね」

「もうすぐでしょう。卜部さんも言ってました。意外に頑丈みたいだって。それにしても彼は」

「?」

「口には出しませんが、きっといろいろ抱えていた、いやいるんでしょうね。門野家の中でうつけものと一部で言われていますが、なかなかどうして骨がありますよ」

「門野、そんな風に言われているんですか」

「ええ、門野家は旧家ですから、それに門野君の姉君、兄君、妹君はそれぞれ優秀な能力者なんです。でも彼にはそうした能力はなかった。陰口の対象になりますよ。それでも今はあんなものを憑き従えてますがね」

「おい、従ってないわ」

 霊獣が現れた。

「傷はもういいの?」

「ああ、完治まではいかんがな。私のような存在は至る所の気を吸収することができるからな。それで治癒できる」

「酸素バーみたいですね」

「何?」

「冗談ですよ。あ、ちょっと失礼」

 弾正は携帯電話を取出し、病室を出て行った。

 長木はふと思った。そう言えば霊獣と二人で対面するのは初めてなのではないかと。

「あの……?」

「なんだ?」

「どうして、門野に憑いているの?」

「夷神の命令だからな」

「夷神て、あの変なお面の?」

「失礼な。ああ、そうだ。あの方の命(めい)だからな」

「あなたのような存在が人間に憑くのは、気分的にどうなの?」

「低級のアヤカシとは違うからな。イタズラや悦楽のために憑いているわけじゃない。それでも人間に憑いて、意に反して呼び出されることがあるのは正直快いものではないな」「それを夷神には言わないの?」

「言いはしない」

「なぜ?」

「オサムが面白いからだ」

「面白い?」

「ああ、門野家のことは私も知っている。私たちの間でも有名だからな。数代前の祖先にかなり強力な霊能力者がいた。それに封じられたアヤカシや霊もいる。その血をこいつも受け継いでるということだ」

「?」

「私が祠を壊そうとしているのを見て、自分が壊せば、私が壊すことはないなんてふつう考えるか?」

「論理的じゃないわね。結局壊わすんだから」

「だろ? それを真面目な顔してやりやがったんだ、私に啖呵をきってな」

「ああ、門野が言ってたのはそのこと……」

「長木」

「アンジュでいいわよ。門野のことも名前で呼んでるでしょ」

「そうか、アンジュ。オサムはこれでも繊細なところがあるんだ。見守ってやってくれ」

「お断りです。と言いたいところだけど、チームに入っている以上、お互いにフォローしあうことはあるでしょうね。それでいいかしら?」

「ああ、構わない」

 そう言うと霊獣は姿を消した。

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