第六章 禁忌
第30話 天の逆手
休日の学校とはいえ、部活動に勤しむ生徒は少なくなく、グランドや体育館だけでなく音楽室などもにぎやかだった。とはいえ、全校生徒から見れば数割であり、特に風紀委員会室の周辺などは、そんな賑わいが遠くの祭囃子かと思われるほどだった。
三人は一息の麦茶に手をつけ、流れる汗とそのもとになっている体温の上昇を抑えようとしていた。
「それで、弾正さん。天の逆手っていうのは?」
「そうですね……」
どう言い始めようかと虚空を一度見つめてから弾正は説明を始めた。
天の逆手。『古事記』に記載されている呪法。その方法は古来より一切不明。しかしその効果がてき面であることは間違いないと言い伝えられてきている。『古事記』という書物の性質上、人間が生み出した呪法というよりも神々の呪法と呼んだ方が適切であり、褻比夷市だけでなく、日本最大の呪法、というより秘法である。秘法であるが故に禁忌という扱いでもおかしくない。
言い終わると弾正は、麦茶を一口啜った。それでも喉の渇きが潤うようには感じなかったのか、もう一口を付けた。
「でも、そんなに正体が分からん事なのに、効果抜群とはよく分かるもんだな」
門野の屁理屈的思考がこういう時には、役に立つ。
「そうです。誰も分かっていないというのが正しいかもしれません。が、それでも二〇〇〇年語り継がれている未知なるものはそれだけで力を有していると言っても過言ではないでしょう」
「単語も付喪神になるのかね」
「壮大過ぎて……頭の整理大変ね……でも、天の逆手って……」
門野も長木もどう理解していいのかがまだつかめていないようだった。
「てことはか、その何だかやり方を知らんけれども、これじゃないかとかといろいろ試している実験者を突き止めればいいってことか」
「そうなります。そこで」
褻比夷市の地図を広げ、印をつけていく。夷神が痕跡を見つけた場所だ。漠然とでも日時が分かるのも付け加えて書いておく。印は神社、仏閣、祠があるところか、それらの近くだった。
「統一性がありませんね。本当に適当、というか手当たり次第といった感じの動きですね」
線を結んで何かの図象になるかと何度も結んでみても、それらしい形状にはならず、また神社名、仏閣名、祠のある場所の名前を検証してみたが、共通項も見つからず、そうこうしていたら、紅い斜陽が校内を包んでいた。
「今晩は我らが巡回しよう」
静観を決め込んでいた葉っぱが、いつの間にか室内で漂っており、三人の前に起立するなり、胸を張って提案した。
「いや…それは」
「休養が必要なのだろう? 人間というのは。何かあれば連絡をする。我らは宙に漂えるからな。監視くらいはできるし、連絡網も回しやすい」
葉っぱのありがたい提案を弾正は受け入れることにした。何といってもまだ門野も長木も完全な体調とは言い難い。それにいつ何時、事が動くとも限らない。休める時には休んでおくに越したことはない。
「じゃあ、よろしく頼みます」
三人は委員会室を歩き出た。葉っぱは窓から飛んで行った。
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