第23話 住宅街

 街灯が等間隔で光る住宅街。そこには門野の靴音しかなかった。いや自転車がブレーキをかける音、シャワーの音、テレビの音。無いわけではなかった。遠くからであろうが、窓の隙間からであろうが、音はあった。まだそれほど夜が遅くなっているわけではない。まだ煌々と明かりがともっている飲み屋街もある。それでも門野にはそれらが聞こえていなかった。

「なあ」

「なんだ」

 門野は憑き物と話をしていた。

「お前はどう思うよ」

「なにがだ。主語をはっきりと言え」

 霊獣の指摘はもっともである。

「坂上のことだ。見てただろ」

「なんだ、そのことか」

「なんだとはなんだよ」

「なぜ気に掛ける。慕われるのが嫌か?」

「そういうことじゃなくてよ、何だかあいつ一年の時とどことなく違うんだよ。前も俺をスゲエだの言ってくれてたはいたんだ。でもよ、今日は違うんだ」

「はっきり言え。回りくどい。それでもO型か」

 血液型性格分類は今は必要ないだろと反論しようと思ったが、そこにツッコんではいられない。

「単にすごいって声じゃなくて、音を漏らしているだけで感情がこもってない。冷たい感じがした」

「なんだ。分かってるじゃないか」

「何のことだよ」

「ハアー」

 霊的な存在はこれほどまでにため息をつくものだろうか。しかも人間が原因で。

「そこまで分かっていて理解できてないのか?」

「だから何をだよ」

「オサム。そこが分からないってことはだな、お前があいつ坂上のことをきちんと見ていないってことだぞ」 

 ここは反論が喉まで出かかった。いくらしつこく言って来る奴で、少々うざいと思っていてもどういう性格でとか、どういうことをするかくらいは分かっているつもりだ。それを今日会ったばかりの霊獣から見ていないと言われれば、腹の虫の居所が悪くはなる。

「そういうことじゃない。私が言っているのはあいつが今どういう状況に置かれているのかを察することはできないのかと言っているのだ」

「状況?」

「お前は誰に憑かれていると思っている。私だぞ。だから見えるはずなのだ。その気になれば。空間を構成しているのが物質だけではないことが。人間も然り。物質的な肉体ひいては器官が集合しているのが人間ではない。そこには物質以外の要素があるのだ」

「つまり……」

「そう。あいつは憑かれている」

「何にだよ」

 霊獣の答えを待つ前に門野ははたとした。坂上が一礼をした十字路。その背中側の道路は、橋に至る道だった。

「クゾ」

 瞬時、門野は疾走を始めた。嫌な予感が湧き上がって来ていた。それを感じないようにするためか、その走るスピードは徐々に上がっていった。

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