第22話 その晩

 その晩。門野と長木。弾正と坂上という組み合わせで巡回をすることになった。組を作ったのは弾正であり、門野との組を所望していた坂上にとっては不満であり、それを委員長自らの傍で業務を見た方がためになるだろうと。そうした方がスキルを間近で見ることができて、かえって門野とのコンビになる日が近づくのではと急がば回れ的な発想を坂上も許諾せざるを得なかった。

 ところで門野と長木が巡回しているのは昨晩と同じ市街地を出た橋の欄干を中心としたところであり、というのも昨日の今日で、興味本位で立ち寄る生徒がいないとも限らない。というよりきっといるので、それらの生徒に帰宅を促すことも業務であり、あるいは昨晩の封印の風景を聞きつけ人間に逆恨みをする《異人》もいないとも限らない。現場周辺が危険であるから、その防止だった。

 案の定、松を背に記念撮影をしたり、橋の上を往復して走る輩がいたりと注意をすることになったのだが、素直に従う者ばかりではなく、逆ギレをしたり、いい気になるなよ的な脅しをかけてきたりする者までいて、これなら人間よりも《異人》の方が話が通じるのではと門野はやれやれといった息を何度吐いたか知れない。人間がそんなだからか、《異人》と出くわすこともなく、定時に集合場所に戻ることができた。

 一方の組では、弾正が坂上に業務を遂行する上で心がけることや気を付ける場所などを歩きながら例示していた。現場を見た方が、あるいはその現場でどう構えるのかを見た方が百聞は一見に如かずということである。こちらの組は《異人》と遭遇していたのだが、害をなす者でもなく、また坂上にはそれらが感じられなかったためにスルー。集合場所たる学校の校門前で定時に戻ってくる門野・長木コンビを待つことになった。

「弾正さんの言う通り」

 着くなり嘆いたのは、門野以外にいるわけがなく

「人間の興味本位ほど面倒なものはないのかも」

 大げさだがそんな報告が業務のありさまをありありと浮かび上がらせているようだった。しかし、それだけで終えるわけにもいかないのは市長ご命令で発足した委員会であり、長木が詳細を話した。

「分かりました。明日報告書を書いておくことにしましょう」

 疲労感漂う門野・長木に対してまだまだ爽快そうな弾正と、歩き疲れた表情の坂上。少数の委員会活動本日の部が終わりを告げた。

「まあ、ゆっくり休んで下さい。それでは」

 弾正の背中を三人が見送り、二年生も歩き始めた。十字路。

「じゃ、私はここで」

 という長木に

「送ろうか?」

 門野は女子一人を放っておくわけにもいかず言うと

「あなたの言うとおりね。《異人》よりも人間の方が面倒かも」

「俺が何したってんだよ」

 ちょっとした心遣いを、そんな調子で返されたものだから、門野の声が大きくなる。

「ちょっと近所迷惑でしょ。大きな声出さないで」

「だってよ……」

「冗談よ。お気持ちだけは受け取っておくわ。それじゃ」

 長木は行ってしまった。

「じゃ、僕もここで。ちょっと寄るところもあるし」

 坂上も申し訳なさそうに頭を下げた。別に謝ることもなかろうにと門野は

「そっか。じゃあな」

 これ以上話を続けると坂上がさらに何か言いそうだったので、切り上げた。坂上に自分たちのような力がないことは、承知していたし、そんな奴が初回パトロールというのはいくら弾正がついていようが精神的にもきっと疲れることだろうと、ねぎらう気持ちがないわけではなかった。

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