第11話 理由
長木がパワーストーンをこうも多く身に着けなければならない理由。それは《異人》の干渉を受けやすいということだった。可視・可聴域が人間の通常よりも広いとでも言おうか。長木の器官は《異人》を捉えてしまうのである。かといって超音波が聞けたり、赤外線が専用ゴーグルなしで見られるというわけでもない。《異人》の姿を見、声を聴き、触れ、匂いが嗅げてしまうのだ。彼女にしてみれば呪われた身体だった。褻比夷市といえども、《異人》を認識できる人が市民の大半を占めているというわけでもなかった。あくまで市長が存在を受け入れ、都市としては異例な許容体制をとっているに過ぎなかった。そこの住人は他の地域の人々と何ら変わりはない。かといって《異人》を感知できる人が少ないと言うわけでもない。ただ長木は、そういう人たちからしても感度が鋭すぎた。現に例えば、長木は門野の憑き物を認識した。明瞭な姿格好で。門野の妹――優秀な霊能力者であるはずの彼女――でさえも、靄上にしか認められず
「兄さんの周りに何か憑いているけれど、悪い感じじゃないから大丈夫だよね」
とだけで済ませてしまうのみだった。
それほどと言うこともあり、そしてそれは物心がついた頃には日常になっていた。と言うことは、人間が十人十色であるように、《異人》も十人十色。認識できると分かった者の中には、これみよがしに長木にちょっかいを出してくるものもいた。場所の異質的な雰囲気―まさに邪と呼びそうな念のこもった―をもろに受けて寝込むこともあった。親しい者もいた。しかし、会話をし、戯れることは翻って、それが認識できない人間にとっては、長木が独り言を楽しげにつぶやき、一人で遊ぶかわいそうな少女にしか映らなかった。それはまた小学生のようなはばかることを知らない時期においては、嘘つき呼ばわりや気味が悪いといった邪険に扱われる格好の材料だった。人間が他を排除することで気づきあげた都市の中で、人間が排除される。そんな様子だった。
中学に入ることになると、その傾向はなおのこと顕著となり、学校生活もままならなくなっていった。そこで向かったのが、とある神社である。そこで《異人》の干渉を防ぐ方法を学び、かつ日常生活においても支障のないように身体保護のために提案されたのが、パワーストーンを身に着けることだった。ここで一つ年上の巫女――神主の娘・卜部俊子(うらべすくね)――と出会ったのも幸いだった。悪意ある《異人》から長木を守り、そして強くあれと教授してくれた。上に兄姉のいない長木にとってはまさに姉のような存在だった。実際パワーストーンをこれほど身に着けるというのは周りの興味本位な視線を受けることになる。しかし、長木にとっては、《異人》から守られ、身体不調を起こすこともなく、人間からないがしろにされる言葉をかけられなければそれで十分だった。かといって長木の先天的な力が失われたわけではない。意識をかけることによって、見ることも聞くことも、触れることもできる。選択的に認識の可不可をできるようになっていたのだ。中学時代はそんなことができるようになるための修業期間のようなものだった。
帰宅して早々にメールを送信しようとした相手は、姉のようなその卜部であった。そして、そう長木にしてもまた新学期が始まるという時に一つの事件が起きていたのだった。
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