第5話 門野家
門野家は褻比夷市の有力な地主の一つだった。だからといって手広く商売をするということもなかった。門野家以上にがめついことをやって一時の富を得ている旧家もあったが、代々門野家は身を修めない者は何をやっても上手くいかないという家訓があり、古典を読んだり、離れの道場で鍛錬に汗を流したりのが常であった。まずは修養せよというわけである。まるでタイムスリップしたようであった。時代劇の撮影など門野家の日常を映せば事足りると思われるほどだった。
門野治はそんな厳格で古風な家に生まれ育った。兄弟がいる。上には姉、兄。下には妹が、それぞれ一人ずつ。姉は有能な霊能力者で除霊や退魔術に秀でており、大学を卒業した昨年来全国各地を飛び回っていた。兄は海外に留学中で、高校時代には全国大会で一位を取るくらいに武道の鍛錬を重ねてきた。妹は中学三年でありながら、ヒーラーとして褻比夷市の市民の御贔屓となっていた。何代か前の祖先に霊能が非常に強いものがいたそうだ。当時はそれを言わずに過ごしていたそうだが、今は違う。そうした力あってもかつてほど邪険にされることはない。その血筋を明瞭に受け継いでいた。父母にそうした力がまったくないにも関わらずに。
門野治はそんな姉兄妹の間に立ち、否応にも比較対象となってきた。必ず起こることなのだ。自分にはそんな意識がないにしても。比べるということは、他者が介入して。
門野自身がどんな成績をとろうが、どんなにスポーツで優秀だろうが、申し分のなかろうが、あろうが、しかし、姉兄妹と比せられれば、その色が霞んでしまう。いや霞んでいるように見る人間が多いと言った方が適当である。それを門野本人は重々理解していた。引き立てて自分は目立たないように、あるいはうつけ者とレッテルを貼られても構わないかのようでもあった。しかし、日ごろの鍛錬を欠かしたことはない。それを知る者は少ない。誰かが見ているから行うわけではない。それが当たり前のことだから行うのだ。そして、今日も門野は鍛錬をしに道場へ向かう。竹刀でも振るのだろう。
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