第33話 白い無機質な部屋と二人の男

意識が戻り、ぼやけた視界が徐々に輪郭を取り戻していく。

周囲は白い無機質な部屋、以前チュートリアルを受けた部屋を思い出す。


目の前には、背広姿と白衣を着た二人の男。

兵器部門の責任者とクローン開発担当者——どちらも冷たい目をしていた。


「突然のお呼び立て、申し訳ございません」

若い背広の男が、作り物の笑みを浮かべる。二十代前半と思われる。


「ハヤト様の戦闘データ収集の様子を拝見していましたが、収集速度やデータの質がとても良好でして、我々も本腰を入れて、妹様のクローン生成に着手しています」


妹の……クローン?

——ああ、メイリから聞いた”見返り”の話か。


白衣の男が軽く指を鳴らし、端末を操作する。

「元々、我々はクローン研究の専門部署だ。基体のベースは出来ている。だが、仕上げに必要な素材が二つほどあるが、君に用意が出来るかい?」

「内容を聞こう」


「一つは音声データ。味気ない機械音声より、実際の声の方が自然だろ?」

確かに、無機質な機械音声では見た目が妹でも、本当の”妹”とは呼べない。

「もう一つは生体情報だ。本人の思念がクローンに宿ることで、完成度が飛躍的に上がる」


白衣の男の説明に首を傾げる俺を見て、背広の男が滑らかに補足した。

「音声データは妹さんの声が収録されているものなら、何でも構いません。カラオケの音声やDVD映像などが挙げられます。出来れば、ノイズが少ない方が精度が上がります」

「なるほど……生体データは?」

「妹さんのDNA情報が欲しいのです。既にお亡くなりになっているので、遺骨あたりが有力な選択肢になると考えています」


「遺骨をもってこいと……中々狂ってるな」

思わず口に出た声が、冷たい空気に溶けた。

倫理のかけらもない要求。だが、二人の表情は微動たりしない。


「纏めると、遺骨と声の記録を持ってこいと」

「理解が早くて助かります」

「だが……」


「手順は簡単です。現世へ一時転送を行います。二人で行う為、制限時間は三十分。座標は、あなたの住居」

「時間が来れば強制帰還だから、そこは注意な」

淡々と放たれる言葉に人間味は一切ない。


「転送準備に入ります、この転送デバイスを腕にはめてください」

床面が淡く光り、白い粒子が足元を包み込む。

その瞬間、胸の奥に重たい痛みが走った。

妹の記録——笑い声、約束、そして最期の日の出来事。

それら全てが、研究材料として扱われようとしている。


「……覚悟を決めるか」

呟いた声は、光の中に吸い込まれた。


次の瞬間、視界が反転し、白い部屋の光景が滲んでいく。

代わりに現れたのは、懐かしい蛍光灯の光と、埃の匂い。

机の上には、一台のフォトフレーム。

そこに映る瑠璃が静かに笑っていた。

——その笑顔が、俺の胸の奥を静かに焼いた。

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