第2話 プロポーズ生活 その1
〜〜その①1週間経過〜〜
「飯にするぞ」
「畑仕事終わってシャワー後に来るって、タイミング良すぎでは?」
「出来る男と言え」
「いえ、タイミングが良すぎてこわい……えっ、食べに行くんじゃ無くて作ってくれたんですか!?」
「疲れてるのに連れ回されるのは嫌だろう?」
そうだけれども! 貴方そんな気遣い旅してる時した事なかったよね!?
料理手伝わないどころか、私にテント用意させたりしたよね!?
「ほら、ローズマリーのフォッカチャにズッキーニとポロねぎのポタージュ(タイムの香り添え)、フルーツトマトとモッツァレラの冷製カッペリーニだ。飲み物は紅茶とカフェラテ、あと柚子湯も出来るが何が良い?」
「シェフか!!」
いや! 何で一国の皇帝がそんなお疲れ女子の休日を癒すお洒落なパスタランチ作れんの!? 日本帰ったらそれ2000円くらい取れるよ!?
「お前達と旅に出るまで、離宮で一人のんびりさせて貰っていたからな。大体の事は出来る」
そうだった。パーシヴァルの国って、私達が来るまで黒竜に呪われてるとか言われてて、そんな国で王族は皆金髪しか生まれないのに黒竜と同じ黒髪で生まれたパーシヴァルを冷遇してた。
実際は、黒竜は国民を呪いから守ってた存在で、パーシヴァルの兄妹が帝位争いして呪いが蔓延しちゃってたんだよね。
最後はパーシヴァル以外、呪いの相打ちで皆死亡というあまりにも自業自得な結末だった。
「食わないのか?」
「食べます」
とりあえずスープを口に運んだ。
「……!? ……っ! ……!!」
何これ何これ美味しい! 美味しい!!
「分かったから落ち着け」
「んぐ……、美味しい以外の語彙力死にました!」
「褒めてもデザートしか出ないぞ」
デザート……だと?
「焙じ茶のブラン・マンジェ(黒蜜ソース添え)だ」
「絶対好きな奴!」
「そうか、朕は美味しそうに食ってくれるお前が好きだ。結婚する気になったか?」
「マイナス20点です」
美味しいご飯は大好きだけど、それで女の子を釣るのは頂けない。
「手厳しいな」
「……ていうか、貴方は食べないんです?」
「食べるぞ。本当はずっとお前の顔を見ていたいが、それだと食べづらいだろ」
「うん、食べて」
またしても爆弾投下されたけど、うまく避けれたと思う。『ソレ本当に食べ辛ぇわ』って気持ちが大きく出てくれたおかげだ。
あ、フォッカチャ美味しい……ん?
この小麦粉……良いやつだ。
「流石にこれは城で焼いてきましたね」
「時間の関係でどうしてもな。それにオーブンは慣れた物の方が良い」
「慣れた……もしかして、あの離宮まだ使ってるんです?」
転移陣でホイホイ来ているから忘れそうになるけど、パーシヴァルの今の生活拠点は私の家から遠い。ノクトザリアの首都にある宮殿だから。普通に馬車で移動したら、此処から2週間くらいかかる。
……て、距離の話はどうでも良いんだよ。
「散々、貴方のお兄さんやお姉さん達がイジメに来た場所でしょう? 嫌な場所じゃ無いんですか?」
「そうだな……昔は、もし朕が皇帝になる日が来れば即刻取り壊す気で居た」
ふと、私を見る彼の目が細められる。
「けれども、今は残しておきたいと思っている。お前と出会った場所だからな」
体温が急上昇した。
……そ、それは反則!!
〜〜その②半年経過〜〜
「わぁ! この時期、お祭りなんてやってたんですねぇ!」
数日前から予定を空けておくよう言われてたので、何をされるのか身構えていたけれど、杞憂に終わった。
ふわりと長い生地に、色とりどりの刺繍が可愛い黒のワンピースに、赤いケモ耳頭巾を被って連れ出されたのは、なんとエイリス王国の
考えた人、良い趣味してるね! あと街中にいっぱい並んでる南瓜ランタンも可愛い。
「毎年開催されていたはずだが、知らなかったのか?」
「最初の頃は、戦闘のノウハウ身につける為に王城で缶詰でしたからね。いざ旅ってなったら『平和になるまで帰ってきちゃダメ』って、王家お抱えの占い師様に出禁食らいましたし」
あの占い師様、本当に意味が分からなかった。帰ってきたら居なくなってたし。
「そうだったのか。じゃぁ、今日は2年分の雪辱を晴らす日だな」
「言い方物騒ですけど、完全に同意です! ……て、何この手?」
パーシヴァルが私の方に手を出している。何か見覚えのある手の出し方だけど……。
「今から人混みに突貫しに行くんだぞ。手を繋がなければ逸れるだろう」
「え……エスコートの概念、知ってたんです?」
「朕を何だと思っている?」
旅の道中……。
オアシス国家の市場に立ち寄った時、仲間のクソガキがガラの悪いおっさんに絡まれても放って行き……。
妖精の谷で、サイズが私の腰くらいまであるウサギ妖精の群れの中を突っ切ろうとした時、声もかけずに雑に俵担ぎし……。
さる貴族のゴタゴタに巻き込まれた時は、パーティ会場で女忍ちゃんと夫婦役を演じる予定だったのに、エスコートせずにいびる鬼姑やってたよね……。
「好きな女以外をエスコートする必要があるか?」
「時と場合と場所! 特に
アレは、子どもを大量に攫っていく悪い貴族の証拠を掴むためのパーティだった。
あの後、パーシヴァルと組まされたチトセちゃんの荒れようは中々凄かった。
『うちかて夫婦なんぞしたないわい! 仕事の都合上しゃーなかったんじゃー!!』と……。
ごめんね、私が別の人と組んだばかりに。
「って、いない!?」
思い出に耽っていたら、パーシヴァルが消えていた。
さっき逸れないようにって手を差し出そうとしてた人が消えるってどう言う事!?
「おい」
「え? わっ、そっち?」
後ろにいた彼は、手に何かを持っていた。
紐? というよりリボンかな?
「手首を出せ」
「あ、はい」
花の刺繍と、毛糸で作った立体の花が付いたブレスレットだった。刺繍も花も可愛い。濃紺のリボンはキラキラ透けてて綺麗。
「女はこれを巻いてる方が安全だ。変な輩に絡まれん」
「いわゆる、『私には相手が居るぞ』って目印です?」
「知ってたのか……」
「いや、大体想像できます」
日本にいた時、ちょっとは異世界ファンタジーを読んでいた。お祭りの話で女の子が男の子から花やアクセサリーを貰ってる時、大抵そういう意味合いが込められてた。
「お代、払いますよ」
そう言ったら、とても渋い顔をされた。
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