平和な世界になったので、黒の皇帝が女勇者に求婚している件
御金 蒼
第1話 皇帝と勇者
此処は、平和になった世界。
つい先日、異世界同士を物理衝突させて遊ぶ傍迷惑な邪神をバラバラにしたところである。
赤紫に濁っていた空が真っ青な色を取り戻し、新緑の草原を風が駆け抜ける。
花の香りに鳥の囀り。
そんな清々しい景色を背景に、
「率直に言おう。嫁に来い」
「あっはっはっはっは! 冗談きっついですわー。断固拒否します!」
私、
「何故だ?」
いや、そんな心底『意味分からん』て顔で首傾げんなし。
確かにこの男、見た目は抜群に良い。高身長で、細く見えるけれど脱いだら凄いタイプの筋肉がある。顔も涼しげで切長な目に綺麗な鼻筋。黒髪に濃紺の瞳も、日本人の私の目に優しい。だが、しかし!
「旅の道中でどんだけ私に暴言吐いたか、忘れてると思ってます? 舐めんな」
「短足、脳筋、それからゴリラか? 事実しか言っていないが?」
「アスカロン!!」
即座に、自分の聖剣を召喚する。
この男! 絶対、絶対! 絶ッッ対許さない!
「死ねぇぇぇえええ!」
さてさて、此処で一つ、私について開示する。
『旅の道中』という単語でお察しの方は居るだろうが、純日本人の私は、この世界を先日まで旅していた。
何故か、それは……
「やれやれ、朕の勇者殿は短気すぎる」
「アンタのじゃ無い!」
そう、私は日本からこの世界に『勇者』として召喚されたからである。
いやもう、最初はヤベー宗教団体に拉致されたと思ったよ。
そこから可愛い魔法使いのお姫様と旅が始まって、傭兵のクソガキを始め薬師のお兄さん、
「ていうか、貴方私の事好きだったんですか!?」
開示している間に穴ボコだらけにした周囲を魔法で直しながら尋ねる。尚、目の前の男には傷一つ付けられなかった。結界張られて躱されたからだ。
「嫌いなら出会った時に塵に変えているぞ」
「ちり……」
やっぱヤバいわコイツ。旅し始めた時から知ってたけど……。
「……いや、結局それって好きなんです?」
好きか嫌いのどっちかなら、『まぁ好きじゃね?』くらいの微妙な感覚なのでは?
「愛してるに決まってるだろ」
照れ隠しゼロでド級の爆弾ぶっ込んできた!?
「何言ってんの!?」
「お前が何を言っているんだ? そもそも見た目からドストライクだ」
はいぃ!? 背ぇ低くて凹も凸も無ェボディですが!? 鼻もそんなに高くないし目も大きな目じゃないよ!?
「確かにだいぶ華奢だな。人形のようだ。たくさんドレスを贈りたくなる。焦茶色の髪は絹のように綺麗じゃないか。チョコレートのようだ。顔も大分愛らしいぞ。こちらの女は大体顔の雰囲気がイカついからな。例えるならお前は菫で、こちらの女は赤のアネモネだ。それに朕は、お前の黒い目の色が一番好きだ」
何かスイッチ入った!?
「にゃ……にゃにを??」
ハッ! 頬っぺたあっつ!! 駄目だ何チョロインになってるんだ私! 落ち着きなさい!
「今更私を褒めたって、結婚はしませんよ! ていうか貴方、皇帝でしょ。しかも邪神討伐した勇者パーティのメンバーなんですから、隣国のお姫様とか、自国の有力貴族のお嬢とか、選びたい放題でしょ」
寧ろ私は選んじゃ駄目でしょ。
貴族や平民以前に、異世界の人間なんだから。
「そうだ選びたい放題だ。だから勇者本人を娶っても誰も文句は言わん」
うっ……『勇者』の肩書きが強過ぎる!
「そして隣国の姫は、お前が『彼奴等じれってぇ!! 早よくっ付けましょう!』などと言って、先日パーティの薬師と電撃
うぐっ……言葉が出ない。
そう、初めての仲間にして今私が住んでるエイリス王国の第二王女、エルシュカが薬師のお兄さんと両片想いでいつまでも進まない事に、痺れを切らした。
同じ気持ちだったご近所のおばちゃん達や女忍ちゃんも手伝ってくれて、我ながら良い仕事をしたと思う。
「あと、もしお前男だったらエルシュカと結婚させられる予定だっただろう?」
あー、そうそう。そんな話聞いたわー。召喚された勇者がお姫様と結婚するってゲームとか漫画の世界だけの話だと思ってたから、アレは驚いたよね。さっきも言ったけど、『勇者』の肩書きは強いのだ。
邪神を実際倒した勇者って、民衆からの人気と敬意がぶっち切りだ。そんな勇者を王家に取り込むことで、王家の正統性や統治の権威が強化されるでしょ。社会の安定と支持率が上がるでしょ。勇者は異世界人だから、他文化共存の象徴的意味合いも含まれてくるでしょ。
私、よくエルシュカの兄弟の嫁にされなかったな……。
いや、悪者倒しても元の世界に戻れないと知った時、王様に「戦いが終わったら静かにしてます! 景色の良い田舎でスローライフさせて下さい!」って、確かに直談判したけれど、色々な観点から考えたら反故されてもおかしくなかったよ。
「つまり、朕が夜這いに来ても何らおかしな事は無いという事だ」
「おかしな事です」
「子は8人くらいは欲しいな」
「めっちゃ死んでほしいです」
当然子どもじゃ無いよ。この目の前の馬鹿朕の事だ。
「では朕は、今日から毎日お前に求婚しにこよう」
「お願い会話して。ていうか皇帝って暇なんです?」
「まさか、多忙だ。……でもな━━」
その時、私は頭に手を置かれて、気付けばそのまま、馬鹿朕の胸板に額が当たるよう抑え込まれていた。
「ようやく、専念出来るんだ。必ず、お前を妻にするぞ」
頭上から聞こえたのは、お腹に響くような低い男の声で、不覚にも心臓が大きく音を立て━━
「差し当たっては、朕の部屋か連れ込み宿か、好きな方を選ぶと良い」
━━たと思ったの、気のせいだったわ。
こんなん1ミクロンもときめかない!
「第3の選択を提案します。やっぱテメェを殺す!」
「3年だ」
「あ?」
「3年、毎日求婚しに通う。それで駄目なら朕もスッパリ諦めよう」
「はい!?」
1週間とか1カ月じゃ無く、3年!?
「朕は━━いや、俺は欲しい物は必ず手に入れるからな」
そう言った男━━パーシヴァル・ヴェイル・ルーセリウスは、見慣れた冷たい顔では無く、ほんの少し柔らかな笑みで私の手を取り、甲に口付けた。
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