夢の第三セクター鉄道

アマリエ

第1話夢の第三セクター鉄道

 いつも通勤に使う鉄道列車には、目的地に向かう中途に第3セクター鉄道駅があり、 本線を迂回するルートで険しい山々の秘境を経由し、終点の職場最寄り駅に到着する鉄道が存在した。使用されている列車はトロッコ列車で、なんと途中で宙返りをする地点まであった。そのため、わざわざ本線駅を途中下車して、駅から横断歩道を渡った向かい側にある第3セクター鉄道駅に乗り換える物好きな人も少なくなかった。

 ある日、コウジは仕事が早く終わり帰宅することになった。時間的な余裕があったので、遠回りになるが、第3セクター鉄道のトロッコ列車に乗って帰ることとし、トロッコ列車が出発するホームへと足を運んだ。トロッコ列車は横1列の2人掛け座席シートからなるコンパクトな作りの乗り物で立ち席はなかった。そして全員シートベルト着用で遊具のジェットコースターを彷彿させるものだった。ほぼ満車状態だったが、コウジは何とかギリギリ乗り込めた。列車はゆっくりと動き始め、都市部を走り抜け、山間部に入ると、険しい峡谷や岸壁など美しい景色が広がった。季節は秋で木々の見事な紅葉に心を洗われた。そして、峠を急勾配で下る線路を列車は加速して下ってゆくと、列車は環状ループ線路を宙返りして走り抜けた。コウジはスリリングな列車旅に興奮したのだった。

 翌日、コウジは昨日のスリリングな列車旅のことを会社の同僚に話したが、誰も信用してくれなかった。宙返りするような列車が存在するわけないとまで言われた。でも、よくよく考えてみると、その通りだと思った。不思議に思い、改めて調べたところ、この第3セクター鉄道なる線路は存在しないことがわかった。夢でも見たのだろうか。狐に包まれたような気がした。どうして現実と非現実とが錯綜したのだろうか。

 あとで駅員に確認したところ、70年くらい前まで、第3セクター鉄道と同じルートを通る、支線があり、産炭地からの石炭をトロッコ列車が運んでいたとのことだった。ただし、列車が環状ループを宙返りするようなことはなかったが、エネルギー革命により、炭鉱が閉鎖されると跡地に遊園地ができたらしい。しかし、その遊園地も40年前には閉鎖されていたとのことだった。

 やっとトロッコ列車と遊園地のコースターとがひとつの線で繋がったが、どうしてそのような夢を見たのだろうか。もともと、夢で見た第3セクター鉄道を現実のものとして認識していたのを、いつもの列車に乗って帰る途中で寝入ってしまい、そこで見た夢を現実と錯綜したのではないかと想像した。 コウジの祖先が当時のトロッコや遊園地を体感していて、その記憶が遺伝子を通じて受け継がれていて、突然、夢としてコウジの頭の中で現れたのかも知れなかった。何とも不思議な体験だった。


おしまい

この第3セクター鉄道列車に乗ってみたいですか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夢の第三セクター鉄道 アマリエ @kiyohaha

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画