乙女と正義のヒーロー

「ねえ? アレって質屋の息子なんでしょ? 金持ってるんじゃないの? 前、金持ってそうな攻略対象居ないのって聞いたら、名前が出て来なかったけど。38ブラザーズも911も」

「え? それは、あいつらがドケチじゃから … 、いやいや!? 今、気にするのそこじゃないんよ!? 親分!?」


 そうなんだけどね? もう何が何だか分からない状況なのよ … 。


 前世の私は不思議に思っていた。

 何故、特撮ヒーローものの敵は、毎週1体づつしか攻めて来ないのか?

 敵である正義のヒーローは、ひとりきりか、多くても5人しか居ないのだから、集団でやって来て囲んでしまえば、圧勝出来るのに、ってね。

 最終回まで、そういう展開は何故か無いのだ。


 つまり、この物語は最終回がやって来た? 玩具の売れ行きが悪くて、スポンサーが降りたのかしら?


「やいやい! こんな怪獣なんか出しやがって、ずるいぞ! タマタマ公爵!」

「正義のヨーヨーの錆びになりな!」


 集団でやって来てしまったのだ、ハマのキョウコシリーズの残りが。

 38口径の銃とハエトリ草が融合したような911怪獣が暴れている現場に。

 ついでに、正義のヒーローにも登場して欲しいのだけど、どうやらそれは私の役目らしい。私、この世界では悪役令嬢じゃなかったっけ?

 なんだか、タマタマ公爵って言われると、悪の怪人のボスのようにも聞こえるけど。


 うーん、おばかさん同士で対消滅してくれればいいのにー。


「触手プレイなのじゃ! こんなスチル回収してないんじゃけど!」


 あ、キョウコ達が、禍々しい911触手に絡めとられた。チャンスよ!

 

「非合法っぽい強力除草剤をいただいてきましたわ!」


 コバトが学園事務から、除草剤を貰って来た。早速、911君の根元にぶちまける。


「ぐえー! きさまー! 俺が滅んでも、この国はもう … 」

「ちょっと、思わせぶりな謎のセリフは最後まで言いなさいよ!」


 911君は新陳代謝が活発なのか、瞬時にカサカサに枯れてしまった。

 キョウコ達は、触手に絡まったまま。チャンスだ!


「火を放て! あの寺のトラウマを、今ここで克服してやるわ!」


 燃え尽きろ! 私の忌まわしい前世のトラウマと共に!


「ぎゃああああああ! あくまああああ!」

「ちょっと! 俺たちまだ生きてる! 生きてるから! 生きたまま焼くなああ!」

「やったか!?」

「あ、親分それだめ、フラグ … 」


 そこからは、まさに地獄絵図だった。

 ごうごうと燃え盛る、火だるまキョウコ達と、釘バットでどつきあい。

 スケ番大戦の開幕だ。


「タマヨン様を援護するのよ!」

「のじゃー!」


 え? 何? セーラー服を着た集団が颯爽と現れたのだけど。

 やはり、これは最終回なの?


「タマヨン様に導かれし集い、セーラー服反逆同好会参上!」

「なにを! キョウコ様を崇拝する会、スケ番暴走族参上じゃー!」


 なんか始まった。


「これは、ハルマゲドンってやつかしらね?」

「平成では、アルマゲドンというんじゃよー」

「ラグナロクの方が、かっこいいですわ!」

「黙示録的戦いじゃないでしょ。ヤンキー同士の集団抗争だよ」


 特撮ヒーローものかと思ったら、黙示録でもなく、ヤンキーマンガだった。

 戦いは、日が暮れて、戦場である学園の裏庭を真っ赤に染めるまで続いた。

 夕陽の赤なのか、血の赤なのか、よく分からないけど。

 最後まで立っていたのは、私だった。 


 こうして、大天使タマヨン伝説は、新たなステージへと突入するのだった。

 そして、学園は再び休校になった … 。

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