第29話 続・鏡の中の世界

 行く先々に広がり続ける大草原。

「なあシロワカ、こっちでいいんだよな」

「大丈夫ニャ! 心配いらにゃい」

「シロワカがそう言ってるんだし信じましょうよ」

「そうにゃ」

 どれだけ歩いただろうか、数時間歩いてるかもしれず数十分かもしれず……ただ言えることは疲れを全く感じない事と渇きや空腹感がない事だった。

「⁉」

 夜に停電が発生したような明り一つない暗闇に一瞬だけ覆われると今度は砂漠の真ん中で佇んでいた。

「蜃気楼だ」

「でも、まったく暑さを感じないな」

「そうだにゃ」

「シロワカ、まだこっちの方角で大丈夫?」

 サニアの問いにシロワカは頷く。

 サクサクサク

 軽快な足音と消え入りそうな足跡を残し進んでいく。

「ゴホゴホ、砂嵐が凄いね」

「サニア、掴まれ、飛ばされるぞ」

「そうする」

 シロワカとは逆の腕に収まり安堵の声を上げた。

「魔力の反応」

 遥か先、視界では捉えることができないが、わずかながら魔法力が流れる気配を感じた。

「石倉にゃんかにゃ?」

「わからねぇが行ってみよう」

 魔力の流れる方向に進み続けると、どんどんとその魔力が強くなって行くのが感じられる。

「何か戦っているみたいだな」

「うん、感覚的にそんな感じ」

 足を速めたいのだが、砂が信長たちの体に吹きつけ行く手を阻む。

 とその時

「何だぁ」

 一瞬で砂嵐が収まり、辺り一帯の視野が広がった。

「ノブ、あれ」

 サニアが指さした先には石倉が多数の鎧のような魔物と戦っていた。

「行くぞ」

「うん」

 信長は全速力で駆け寄る。

「サニア、シロワカ、危ないから降りてくれ」

 走りながら軽く屈む姿勢をとって二人を降ろすと、ワンドを引き抜き魔法の詠唱を始める。

(敵は、ニ十体はいるな)

 首から上が無い、デュラハンのような魔物だ。

「はっ」

 能力が上がる魔法を唱え終わると、身体から力が沸き上がり足の回転も速くなる。

「ピュー」

 口笛を吹き愛刀を掴むと再び魔法を唱える。

 小太刀が三日月のように光ったかと思うと青白い炎が刀身に纏わりつく。

 三度目の詠唱を終えると、近場の一体へ雷の魔法を放つ。

「うおおおおお」

 魔法の決まった一体は動きを止めてこちらに体を向けてきた。

「アチョーーーーーー」

 そのデュラハンに飛び蹴りをかますと、体勢を崩し仰向けに倒れてボーリングのピンのように数体を巻き込んだ。

「おりゃーーーー」

 デュラハンを切りつけると、手に硬い感触の後に肉を切った感覚が伝わる。

「ハアハア、よし」

 敵の怯んだすきをついて、石倉と敵との間に割り込んだ。

「石倉さん、とりあえず下がって援護してくれ」

「おう」

「これでも喰らうにゃあぁぁあ」

 デュラハン達の頭上に雷雲が湧いてバリバリと雷を打ち付けた。

「ノブ、イシこれ受け取って」

 白い球体の群れが二人を覆うと、見る見るうちに疲労が抜けてゆく。

「追撃だ、喰らえ」

 雷の魔法を敵の群れに放つと、一体がもんどりうって倒れた。

 敵は後十体ほど。

「今の前線は俺しかいねぇー。 やってやる!」

「信長君、受け取れ!」

 目玉から火の玉が出るようなチカチカと激しい高揚感が同時に起こる。

 敵の一体が大剣を頭上高く振り上げた。

「うおおおおおおお」

 上段から振り下ろされた大剣を素早くかわして腹部をたたっ切る。

「ファイヤー」

 炎を振り払る敵の隙をついて胸元へ刀を刺しこんだ。

「とりゃーーー」

 刀に刺さったままの敵を蹴って抜き取り、次の敵に備える。

 サニアが唱えた魔法が敵にぶつかると一瞬隙が生まれた。

「おりゃー」

 その一体を切り伏せる。

「次ィ」

 大剣の斬撃を刀で受け流し、体勢を素早く変化させ一撃を決める。

「にゃー」

 小さな体のどこからその大きな声が出たのかという位大きな鳴き声の後に火柱が三本吹きあがった。

「よし、私も行くぞ」

 石倉の声と共に紅蓮の嵐が吹きすさびデュラハンの生き残りたちを襲った。

 びゅううううう

「ぐおおおおおお」

 激しい嵐に体ごと噴き上げられたデュラハン達が断末魔の声を上げた。

 ガシャン

 ガシャン

 鎧が地上に激突する音がこだまして、その後静寂の時が流れた。

「全部倒せたな」

「ああ、感謝する」

 石倉が柄にもなく落ち込みながら感謝を伝えてきた。

「気にしないの! 仲間でしょ」

「そうにゃ」

「石倉さん、何か体の事わかったかい?」

「いや」

 石倉は疲れた様子で首を振った。

「――こっちだにゃ」

 唖然と見つめる石倉にサニアは「シロワカがずっと案内してくれているの」と答えた。

「よし、出発しよう」

「おう」

「戦っても疲れている感覚はないんだが、ただ息切れはするんだよな」

「変な感覚よね」

「まったくだ」

 しばらく歩くと今度は森林の中に迷い込んだ。

 辺り一面に雑木林がうっそうと茂り、そこに一本獣道が申し訳なさげに行く先を指し示していた。

「ここは……知っているにゃ」

 そう言い終わるや否やシロワカは一人走り出した。

「お、おい」

「追いかけるぞ」

 シロワカを追って道なりに進むと、いつも間にか周辺の景色が雑木林から竹林に変わっていた。

「あっ」

 前方には、以前に見たお社らしきものが立っていた。

 らしきものと付け加えたのは、年数がたったのかお社が崩壊し辛うじて雨露をもしのぐのは難しいだろうと思うほどの状態だった。

「シロワカ」

「シロワカーどこ?」

 呼びかけるとにゃあという声と共にシロワカがお社から出てきた。

「入って欲しいニャ」

 お社の中は薄暗く、ところどころ開いている穴から光が差し込んできていた。

 ギィギィ

 足元の木も傷んでいるのか踏むたびに音が出る。

「懐中電灯ッと」

 明りを付けると奥に部屋があるのに気が付いた。

「ここは、シロワカのお家?」

「まあ、そうだにゃ」

 曖昧な答えと共にシロワカが奥へと案内する。

「ガッガッ」

 なかなか開かない建付けの悪いトビラをどうにか開けると、奥に小さな祭壇のようなものと人が寝ているような姿がぼんやりと写る。

「⁉」

 信長が懐中電灯を向けるとその姿が鮮明になった。

「お、俺の体だ!」

 そこには雑居ビルで幽霊と呼ばれていた男が、まるで眠っているような姿で横たわっていた。

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