第5話 サニアの思い
自宅に帰るとサニアが珍しく迎えに出てきた。
「大丈夫? 会社の近くで殺人事件あったみたいだけど」
「俺は大丈夫だ」
「まあ、そうだよね。 かかわってるんなら殺る方だよね」
相変わらず物騒なことを言うサニアに今日あったことを手短に伝えた。
「ひょえー、そんなヤバいやつに会ったんだ」
「どこまで信じればいいか分からないが、蕎麦屋での邪気は本物だ」
「お昼、そばだったんだ」
「え?」
「私、何も食べてないのに、蕎麦食べたんだ」
(やばい、サニアが怒ってる……)
「今から御飯用意するね」
(そういえば、昼メシ用意するの忘れたかも)
棚から袋麺を取り出し、冷蔵庫を開け野菜を探す。
「キャベツ、玉ねぎしかないな」
ある野菜を出して刻むと同時にナベでお湯を沸かし、フライパンを用意する。
換気扇のスイッチを入れて、器を用意してスープの素を入れる。
チラリとサニアを見ると、嬉しそうにこちらを見ていた。
「よかった、お腹が減ってたんだな」
フライパンに油をひいて炒め始めると玉ねぎの甘い香りが鼻をくすぐる。
袋麺を開封し、鍋に放り込み、数分後菜箸でほぐすと程よい硬さになったので、火を消し器へ盛って野菜を乗せる。
「よし、出来た」
器を二つテーブルへ運び、台所にある鍋などを洗いはじめた。
「台所片づけるから、先に喰ってて」
信長がそう声をかけるも、サニアは食事をせずに信長が洗い終わるのを待ち続けた。
「ごめん、先に食べててもよかったのに」
信長に対しサニアは申し訳なさげな視線を投げかける。
「ごめんね。 ノブ仕事で疲れているのにわがまま言って」
「ん? 気にするなよ」
「いや、気にするよ。 作ってもらってばっかじゃん」
「大丈夫だって」
「私の体が大きければ、色々出来るんだけれども……」
そう言って悔しそうに落ち込むサニアを信長はなだめ続けた。
「ノブ、おやすみ」
いつもなら夜更かししてタブレットを見ているサニアが今日に限って、食事後すぐに布団に入りこんだ。
「やっぱり、つらいのかな」
少し様子が変なのは、異世界から戻ってきて再び行こうとしている男の話をしたからだろうか。
「考えてみたら、サニアは孤独だしな」
こちらの世界ではサニアは誰からも気付かれない、存在の無きものとなっており、話好きの彼女にとってはとても苦しいものだという事は容易に想像できた。
「……サニア、帰った方が幸せになれるのかなぁ」
信長は昼間に会った石倉の事を思い出した。
「あいつは異世界の行き方を知っているのだろうか?」
頭の裏で指を組ませて考えてみるも、少ない情報では結論が出るわけがなく、無駄に時間が過ぎていった。
正直、今の世界の待遇に不満が無いわけではないが、だからと言ってこちらの世界の便利さを捨ててまで戻りたいという訳では無い。
「第一、もう戦いには疲れ果てちまったんだ」
シュパ
プルタブを押し込む音が小さく部屋に響く。
「……」
サニアにとって戻った方がいいのか、彼女は現状どう思っているのか、信長は頭の中が堂々巡りになり、結論が出ないままに悩んでいた。
(もし、異世界へ再び足を踏み入れられるとなった場合は、行った方がいいんかな)
サニアとは長い付き合いだ腐れ縁と言ってもいい、別れるとなったら寂しいことは確かだ。
信長は視点の合わない目でサニアの寝ている姿をぼぉっと眺めていた。
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