第6話 一角団
「今の女は……」
雑踏に紛れていった影。
「ユキ! ユキってば! 聞いてる?」
エルメリが口を尖らせていた。
「ああ、なんだ?」
「なんだじゃないよ。本当にあのパーティでよかったの? 私はもっと年の近い仲間が良かったのに……」
「ああ、それはな、実力のある連中から学んだ方が早く腕を上げられると思ったんだ。それに、ギルドの世話人も言ってたろ――」
「世話人じゃなくて職員さん」
「その職員も言ってたろ。パーティに入るも抜けるも自由で、そこはギルドが保障してくれるって。それに、顔が広いってことはそれだけ人の繋がりが増えるってことだ。気楽な連中とばかりつるんでたら、その狭い世界で完結してしまう。広い世界に名を知らしめるためには、踏み台ってものも必要だ」
エルメリは眉をハの字にして不安そうな顔をする。
「よくわからないけど……あの人はちょっと怖いな」
「冒険者って要は半グレっつうかアウトローみたいなもんだろう? なら、ああいう連中との付き合い方も覚える必要があるんじゃないのか? それから見た目で決めつけるのもよくない。人ってのは誰にも良い面と悪い面がある。仮に、あのショーンベルクの女癖が悪いとしても、腕は確かなんだ。良い面を見てやろうじゃないか。――それに、もしもの場合は俺が護ってやる」
エルメリを説得し、その後、二人で泊まれる下宿を探した。
◇◇◇◇◇
「しっかし、自慢するだけあってとんでもねえ馬鹿力だな……」
背負子に大荷物を載せた俺は、一行の中ほどをエルメリと共に歩いていた。怪物の居る森の中へ踏み入るための食料や罠、天幕など、普通なら手分けして運んだり、人を雇って運ぶ荷物を俺一人が運んでいた。
最初はヤケクソに背負子へ荷物を積むものだから、皆、バカにするように笑っていたが、俺がそいつをひょいと担ぎ上げると、誰もが大口を開けていた。尤も、バランスってものがあるんで積みなおさせてもらったが。
「
「違げえねえ」
森の中には本当に怪物が居た。俺はゲームの類はやらねえが、ゲームなんかで出てきそうな怪物が実際に存在した。バカでかい火を噴くカブトムシだとか、四本足のワシだとか、集団で襲ってくる小鬼だとか、そういったものを狩りながら森の奥へ進んでいく。
俺が背負った荷物は、食料が減っていくと同時に、怪物の希少部位というものが増えていった。食えるわけじゃないらしいが、売って金にできるらしい。食料は予備をそれぞれが分散して持っているから、そういった物を持ち帰る余裕は十分あった。
「確かに、荷運び人を何人も雇うのを考えたら安上がりだな」
「だろう?」
「だが、口の利き方がナってねえ。直す気あんのか?」
「ツンケンすんな。仲間だろうがよ」
ショーンベルクには相変わらずの態度で接していたが、こちらが有用とわかると、そこまで険悪な態度で返されはしなかった。
◇◇◇◇◇
ショーンベルクたちは森を抜け、川の上流らしき場所まで辿り着くと、その先で機械式の大型のクロスボウから成る、罠の準備を始めた。
「大昔は生贄も使ったって話だが、今はこいつだ。これでおびき寄せる」
俺とエルメリに、ショーンベルクたちが荷物の中の、厳重に封をされた箱の中から袋を取り出して見せた。袋の中身は特に動いているわけでもなく、生餌が入っている様子はない。
「何が入ってるんだ?」
「土と山羊の血、あとは開けてのお楽しみだな」
準備が整うと、耳栓を渡され皆で身を潜めた。袋が斬り裂かれ、中身が零れ落ちると、辺りに金切り声が響いた。それはまるで赤子の声ようにも聞こえたので眉をひそませたが、遠くから見ても人間の子供のようにはとても見えなかった。植物か何かだろうか?
やがて現れたのは、連中がタラスクと呼ぶ六本脚の龍だった。そのタラスクが餌に食いつくと同時に、予め狙いを定めて設置されていた6台の大型のクロスボウから
全員でそれぞれのロープを引き絞ると、タラスクは縫い留められるほどでは無いが、動きが鈍くなる。そこへまた弓やクロスボウで射て弱らせると、大きな剣や槍を持った連中が鱗の薄い部分へ襲い掛かり、時間こそかかるが徐々に出血させ、危なげなくタラスクを倒してしまった。
「なるほど、これは凄い」
エルメリも、道中では時々回復魔法というのを仲間に掛けていたが、今回ばかりは計画を立てていただけあって犠牲者どころか負傷者もなかった。怪物を倒すというのでどれだけ無謀なことをするのかと思ったが、ショーンベルクたちのやってることは理に適っていた。
ただ、タラスクの流した血が毒なので、しばらく放置してから、希少部位と体内の魔石とやらを回収するのだそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます