第7話 クズのやること
城塞都市へと帰還した俺たちは、ギルドでタラスクの魔石を確認してもらい、報酬を貰った。魔石そのものは競売に掛けられるのだという。まずは、報酬から経費を引いて分け前を貰う。
「エルメリとユキは半人前の報酬だ」――と、ショーンベルク。
「そんな……」――とエルメリは声を落とすが――
「いや、それで構わねえよ。リーダーが俺たちの価値がその程度だと思うならな。割りが悪ければ他へ移るまでだ。ああそれから、せめて俺の報酬は、荷運び人に払う報酬から考えてくれよな」
「荷運びは1日で銀貨1枚が相場だ」
「あんな場所まで行って危険手当も無しか? それで人が集まるのか?」
肉体労働が1日銀貨1枚というのは聞いていた。ただ、それは俺の実家の農夫のように危険のない仕事の場合だ。
「ちっ、お前は口の利き方を覚えろ。お前だけ銀貨60枚上乗せしてやるよ」
「ありがとよ、リーダー」
俺は銀貨115枚と、エルメリは銀貨45枚を手にする。しばらくはこれで食いつなげるが、問題は甲冑だよな。
「ユキ、これじゃあ宿と食事でいっぱいいっぱいだよ……」
「心配すんな。俺たちが有用とわかれば分け前も上げざるを得なくなるさ」
ギルドホールで不安そうなエルメリを落ち着かせていると、他所の冒険者が集まってきた。
「お前か? タラスクの首を担いで持って帰ってきたのは。とんでもねえ馬鹿力だな」
「どんな祝福を授かったんだ? 戦士でもあんなのは見たことねえぞ」
「俺は賢者なんだそうだ。神様とやらから、なぜだか頭の悪そうな体力を貰っちまってな」
「大した身体つきでもねえのにあれだけの大荷物を担ぎ上げられるとは、見事なもんだぜ」
「なんだったらオレたちのパーティへ移らないか? あの怪力なら、鍛えれば賢者でも十分戦える」
「いや、うちなら報酬も最初から一人前以上出すぜ。うちへ来い」
競うように俺を勧誘してきた冒険者たち。
「ありがたいが、しばらく移るつもりは無い。拾ってくれたショーンベルクに義理があるからな。その後でまた考えさせてくれ」
俺は大仰に、周囲によく聞こえるようにそう答えた。
◇◇◇◇◇
その後、怪物の希少部位を売り払った儲けから分け前を貰った。魔石はまだだが。
「ユキ! 金貨だよ、見て!」
分け前は二人とも金貨2枚だった。銀貨にして240枚。甲冑を買うには足りないらしいが、それでもしばらくは金に困らない額だ。エルメリも喜んでいた。
「どうだ? これだけ貰えれば文句はねえだろ?」――わざわざショーンベルクが念を押す。
「なるほどな。しんどい思いをして運んできただけの甲斐はあった」
「いまからお前たちの歓迎会だ。二人とも付き合え」
「歓迎会ってここでか?」
「ああ。王都のギルドでもホールはここまで大きくねえ。酒まで飲めるギルドホールは、他にはそうねえぜ」
そう言ってショーンベルクは宴を開いた。本当に俺たちのためかは正直わからんが、要は打ち上げってやつだろう。幅を利かせているだけあって、ホールの中央に陣取って飲めや歌えの大騒ぎを始めた。エルメリはビビっていたが、こういう連中はこうやって結束を深めるもんだと言い聞かせる。
「場数を踏むのは悪くない。根性座ってた方がこの先きっとエルメリのためになる。いい女にもなるってもんだ」
ナオミだってそうだった。青臭かった頃よりも、遊びに連れ回したからこそあれだけのいい女になったんだ。自分色に染められる初心な女を好むのは男の独善だ。俺も含めてな。
宴の中、ショーンベルクたちはエルメリを評価し、
「エルちゃん、こいつとは同郷? なのに手も出されて無いの?」
「そりゃあ勿体ない。オレなら放っておかないのに」
俺は困っているエルメリの前に割り込む。
「なあ、すまねえが、エルメリには手を出さないでやってくれねえか」
「ああ? なんだと?」
「
ドガッ!――酔った団員のひとりが殴りつけてくる。…………が、なんだこの生っチョロイ拳は。左腕で
「痛ぅ……。おっ、お前、よくもやりやがったな!」
「いや、何もしてねえが――」
「やりやがったろうが!」
ボコッ!――もうひとりが今度は蹴りつけてきやがった。だが、その蹴りも膝で止められ、全く痛くない。あの神とか言うのが、元の賢者はフィジカルが優れてるとは言っていたが、優れてるってレベルじゃねえだろこれ……。ただ、このままエスカレートしては刃傷沙汰になりかねない。
「まあ、落ち着いてくれ。この通りだ。俺はエルメリを護ってやる義理がある。ここは俺の顔に免じて……」
顔も何もここじゃ価値はないけどな。
「わあった。なら、膝を突いて謝れ。んで懇願しろ」
「それで済むんならしてやるよ」
俺は汚れた床に両膝を突いて正座し、――すまん。見逃してやってくれ――と頭を下げた。
辺りはしばらく静まり返ったあと――
「なんだコイツ! 両膝を着いてやがるぜ!」
「情けねえ
団員たちは、ふたりにつられて笑う。膝を突けっつったのはお前らだろうが。
「ユキ…………どうして…………ユキ、強いのになんで…………」
「エルメリ。力があるからって力で解決するのはクズのやることだ。俺はお前のためなら、頭を下げるくらいどうとも思わない」
ただまあ、なんというか、ここの団員は正真正銘のクズだったわけだ。下手に出た俺の頭を蹴ってきやがった。さすがに頭を蹴られりゃ俺でもバランスを失う。さらに床に身体を着けていればただの蹴りも恐ろしい武器になる。床ってのはダメージを倍にしてくれるからな。おまけにこういうクズは暴力で上下関係の示しをつけがちだ。俺は二人に殴る蹴るの暴行ってのを受けたわけだ。
ま、死にはしねえだろ……。
そう考えながら、腹を庇って丸まり、腕で頭を護り続けた。
最後、飽きてきた頃にショーンベルクのやつが出てきて言いやがった。
「そのくらいにしてやれ。コイツもいい加減、口の利き方を覚えるだろ」
面倒くさくなった俺は、その場で大の字になって眠った。
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