【SS】タイムマシン

ずんだらもち子

タイムマシン

 T青年は一歩足を踏み出した。


「成功したのか……?――」


 目が慣れたT青年の視界に飛び込んできたのは、多くの人の群れだった。


 沢山のクラッカーで出迎えられる。


 あまりに旧時代的過ぎだ。失敗したのだろうかとTは歓迎の言葉を素通りして尋ねる。

 今は西暦何年だと。


 固い両肩を掴まれた男性は答える。西暦で言うと2430年10月13日AM10:43だと。隣にいた女性が左腕の袖を捲り日時を見せつけてきた。


 Tはそれを見て確信し、喜んだ。

 自分が見つけたタイムトラベル理論と、作り出したタイムマシンの成功を。


 きっかけはほんのちょっとしたことだったという。

 大学の研究室で、暇つぶしに趣味のバイクをいじっていたら思いついたというのだ。特別なものは必要なかった。

 から揚げだって、鶏と小麦粉と油は昔からあるのに、それをから揚げにしたのは人の歴史が始まってから随分経ってからだろうとTはのちに多くの人に向けて語った。


 そんなT青年の快挙は、当然歴史の大河に記録されていたようだ。


 出迎えた人々は、四百年以上の時を経て語り継がれていた彼の偉業を称えるべく、待機していたようだ。

 両肩を掴まれた男がすぐに答えることができたのは、Tが残した記録のおかげだ。

 

 未来の人たちはTを手厚くもてなした。

 未来の料理は、Tが想像していたよりも質素ではなかった。食材そのものは人工的に作られた物が多くはなっていたが。

 時の大統領にも会った。惑星間航行も整っているからか、異星人だったが。

 未来の建築物や乗り物、娯楽やガジェットなども体験した。

 持ち帰りたいという気持ちは当然わいたが、我慢した。

 歴史が大きく変わってしまうことをTは弁えていたからだ。


 それでも案内役を買って出てくれた女性がお土産にと1つのガジェットを持たせてくれた。主としての機能は空間転移装置で、他にも多少の機能がある小型の物だった。


 楽しい時間が流れ、一日、また一日と滞在期間は伸びていった。


 一週間ほど経った頃、T氏は元の時代に戻ることを決意する。

 戻ることで自分の偉業は初めて快挙となるのだからと。

 そして発表することで、あなたたちにも会うことができたのだから、と。



 未来の世界はあまりにも画期的すぎた。どこの大陸に向かおうにも、5分あればたどり着いてしまう。むしろ大陸内移動の方が時間が必要なくらいだ。

 急ぎ過ぎた世界で、もてなされてばかりでは次第に疲労がたまっていた。案内をしてくれた男性と女性はけろりとしていたが、T氏はヘトヘトだった。



 大勢の人たちが見守る中、T氏は土産のガジェットを手に、タイムマシンと共に忽然と消えてしまった。


「帰ったか……」


「ええ。予定より少し長くなったけど、誤差の範囲だわ」


 女性は左腕の袖をまくると、露になった画面に映るデータを読み上げた。


『タイムマシンを発明したと訴えたT氏 自殺。SNSでの誹謗中傷が原因か。数日前の投稿で死をほのめかす内容』


 そんな見出しだった。


「端末のことは記事に反映されてないのか? 証拠として持たせただろう」


 女性が答える。


「ええ。この時代のあらゆるネットワーク、衛星なんかとリンクしてるんだもの。過去に持って行ってもただの機械の塊にしかすぎないわ。一応はダメ押しになったと思う。まぁ特別なものは必要なかったわね」


「そうか。確かに、そこから『か?』が消えているな」

 男性が目を光らせただけで該当箇所前後の文字がマーキングされた。

「T氏には悪いが、彼が死ぬことも正史となっているからな。その犠牲で多くの法も作られたわけだが……」


「そのせいで人類のタイムマシン発明はもう百年遅れることになる。たった一つの嘘のせいで残り全ても嘘に見える。本当人類って愚かね、減らしておいて正解だったわ」


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【SS】タイムマシン ずんだらもち子 @zundaramochi777

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