サイコパスという存在を通して倫理、悪意、人間性の境界線を深く掘り下げた

この物語は、サイコパスという存在を通して、倫理、悪意、人間性の境界線を深く掘り下げた、非常に衝撃的で示唆に富む作品だと感じました。

事件の真相が二転三転し、読者の価値観を揺さぶる構成が見事です。


「自殺を阻止した」という目的のために「殺す」という狂々の論理は、常人の道徳観から完全に逸脱しており、サイコパスの異常性を強烈に提示します。

「3人とも、Win-Win-Winだな」というセリフは、悪意がないからこそ恐ろしい、サイコパスの思考の「純粋さ」を象徴しています。

「人間はサイコパスを殺しても心を痛めない」という噂と、それに続く「サイコパスは人間ではない」という差別的な思想の誕生は、社会が恐怖から自己都合の理論へと逃避するプロセスをリアルに描いています。


狂々の「俺は、お前らが本当のサイコパスだと思ってるよ」という一言は、物語の最大の転換点です。

狂々は悪意なく行動したのに対し、人間は差別という「悪意」をもって狂々を排斥しようとする。この対比は、道徳的な悪(罪の意識)よりも、意図的な悪(差別、排斥の意思)の方が本質的な「悪」ではないか、という強烈な問いを突きつけてきます。


事件の計画性が狂々ではなく母親にあったという展開は、読者を再び驚かせます。

母親の「私だけが苦しんでいることが許せなくなった」「直々の命を利用できてしまった」という告白は、脆い人間性、嫉妬、限界状態の感情が、純粋なサイコパス(狂々)を利用して、最も邪悪な結果を生み出したことを示します。

この瞬間、読者は、「悪意なく殺した」狂々と、「悪意をもって操作した」母親のどちらがより「人間的」または「悪」なのか、というパラドックスに直面します。

この物語の最大の魅力は、「悪」の所在が明確に定まらない点にあります。

全体として、単なる猟奇事件の物語ではなく、現代社会における倫理、差別、そして「人間であること」の意味を問い直す、非常に哲学的なサスペンスとして成立していると感じました

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