第7話 彼女の痕跡、僕の使命

ルナがいなくなってから、屋敷の中は張り詰めた空気に包まれていた。朝から晩まで彼女の名前を呼び続けたが、僕の声に答えるものは何もなかった。昨夜の出来事が幻だったかのように、ルナがいた痕跡はまるで初めから存在しなかったかのようだった。しかし、僕の頭の中に表示されるクエストウィンドウだけが、それが現実だと証明していた。

【クエスト:ルナを探せ】

僕は、庭園で彼女の魔力が暴走した時にできた、あの血のような赤いバラをもう一度見に行った。それは、まるでルナの心の叫びが凝り固まったかのようで、触れると冷たく、そして鋭かった。このバラが、彼女がここにいた唯一の証拠だった。僕の知る限り、ルナの魔力は、彼女の感情と深く結びついている。特に、孤独や恐怖といった負の感情が強まると、魔力は暴走し、不可視の現象として現れる。ということは、このバラは、彼女の悲しみが形になったものなのだろうか。

僕は、ルナの魔力に関する情報を得るため、使用人たちに話を聞くことにした。僕に対する警戒はまだ解けていないようだったが、ルナの安否に関わることだと知ると、彼らは少しだけ協力してくれた。使用人たちが口を揃えて言うのは、「ルナ様は、感情が昂ぶると屋敷を抜け出すことがあった」ということだった。彼女が向かう場所はいつも決まっていて、それは屋敷の裏手にある森の奥にある、小さな湖畔の離れだった。

僕はすぐさまその場所へと向かった。森の中は、昼間だというのに薄暗く、ひっそりとしていた。木々の間を縫うように進むと、僕の頭の中のクエストウィンドウに新たな情報が表示された。

【ルナの痕跡を辿れ】

【達成条件:湖畔の離れに到着する】

【報酬:追加情報】

湖畔にたどり着くと、そこには古びた離れが建っていた。扉を開けて中に入ると、そこはルナの秘密の隠れ家だった。ベッドや机はきれいに整えられていたが、埃をかぶっており、しばらく誰も使っていないようだった。しかし、机の上には一冊の古いノートが置かれていた。それは、ルナが子供の頃からつけていた日記だった。

僕は意を決して、そのノートを開いた。そこには、彼女の孤独な日々が綴られていた。誰にも理解してもらえない魔力の力、自分を恐れる家族や使用人たちの視線、そして、孤独な心を埋めるために僕を求めたこと。そして、一番最後のページには、走り書きでこう書かれていた。


「もし、このメモを見つけたら、海の見える場所に行って」


僕はそのメモを握りしめ、心臓が大きく高鳴るのを感じた。これが、ルナが僕に残してくれた唯一の手がかりかもしれない。なぜ彼女は、この場所を指定したのか?そこに、彼女が抱える秘密を解く鍵があるのだろうか?

僕は、迷うことなく離れを飛び出した。ルナを探す理由は、もはや彼女の安否を確認するだけではない。彼女が一人で抱え込んだ秘密を、僕が知るべきだと感じたからだ。その秘密こそが、僕たちが再び出会うための唯一の道だと思えた。

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