第6話 僕が守るべきは、彼女の心か、それとも僕の自由か


僕は気を失ったルナを抱きかかえ、彼女の屋敷へと戻った。街で僕たちの前に立ちはだかった男は、僕がルナを抱きかかえて走り去ったことに驚き、その場に立ち尽くしていた。僕の頭の中で表示されるクエストウィンドウは、彼を「ライバル:謎の護衛」として認識していた。

屋敷に戻ると、ルナをベッドに寝かせ、僕は一人の使用人に声をかけた。彼は僕を警戒し、恐る恐る僕の言葉に耳を傾ける。僕は彼に、ルナの容態を診てくれる医者を呼ぶように頼んだ。使用人は、ルナの顔が穏やかになっているのを見て、僕に対する警戒心を少しだけ緩めたようだった。

その夜、ルナのベッドサイドで彼女の容態を見守りながら、僕は考える。今日の出来事は、僕に一つの現実を突きつけた。

僕が元の世界へ帰るためには、ルナの心を癒し、彼女の「呪い」を解く必要がある。しかし、それは同時に、僕とルナの関係を、外部から敵意を持って見られることにもつながる。このままルナの呪いを解き、彼女が僕に依存しなくなれば、僕は元の世界に帰ることができる。しかし、彼女を一人にしたら、彼女の孤独はさらに深まり、僕が去った後、彼女がどうなってしまうか想像もできなかった。

ルナが目を覚ますと、彼女は僕の顔を見るなり、安心したように微笑んだ。


「アキラ様…」


彼女は僕の手をそっと握りしめる。その手はまだ冷たかった。


「怖かったかい?」


僕がそう尋ねると、ルナは小さく頷いた。


「皆…私を恐れているのですわ。でも、貴方は…私を恐れないでいてくれる…」


ルナの言葉に、僕は胸が締め付けられるような思いがした。彼女の抱える孤独は、僕の想像を遥かに超えるものだった。彼女のヤンデレは、ただの歪んだ愛情ではなく、誰にも受け入れてもらえなかった孤独が生み出した、彼女なりの防衛本能だったのだ。

僕は、彼女の孤独を癒すことが、僕のクエストであり、僕の役割だと、改めて心に誓った。しかし、僕はまだ、僕自身の心の中に芽生え始めている、ルナへの感情が何なのかわからなかった。それは、純粋な同情なのか、それとも、別の何かなのか。

翌朝、僕が目を覚ますと、ルナはもうベッドにはいなかった。僕は慌てて部屋を出て、彼女を探し回った。しかし、屋敷のどこを探しても、彼女の姿は見当たらなかった。


「ルナ…?」


僕は不安になり、僕の頭の中のウィンドウを確認した。

【ルナ・エルメシア】

【状態:不明】

【居場所:不明】

彼女の居場所がわからない。僕の心臓がドクリと跳ねた。

【警告:ルナ・エルメシアの魔力が暴走しています】

ウィンドウに表示された警告に、僕はゾッと背筋が凍りついた。ルナが魔力暴走を起こしている。そして、その場所は…

僕は、彼女が最後に姿を消した庭園へと向かった。庭園の中心には、彼女がいつも座っているベンチがあった。そのベンチの近くには、一輪のバラが咲いていた。そのバラは、血のような赤色をしていた。

僕は、このバラが、ルナの魔力が暴走した時にできるものだと直感した。


「ルナ…どこにいるんだ…」


僕は彼女の名前を叫んだ。しかし、僕の声に答えるものはいなかった。

その日の夜、僕は庭園でルナの姿を探し続けた。しかし、彼女の姿はどこにも見当たらなかった。僕は、この世界に転移してきた時の、あの途方もない孤独を再び感じていた。

僕は、ルナの孤独を癒すことで、僕自身が孤独から解放されることができると信じていた。しかし、彼女がいなくなった今、僕は再び、この世界でたった一人になってしまった。

僕が守るべきは、彼女の心か。それとも、僕の孤独からくる恐怖か。

僕の頭の中で、新たなクエストウィンドウが浮かび上がった。

【クエスト:ルナを探せ】

【達成条件:ルナ・エルメシアを見つけ出す】

【報酬:…(現在ロック中)】

僕は、このクエストを達成するために、ルナを探し出すことを決意した。そして、その先に、僕の求めるものが本当にあるのかどうかを、自分の目で確かめることにした。

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