第4話 ゲームの『クエスト』は、僕に彼女を操る方法を教えてくれる

ルナが自室に戻った後、僕はベッドに横になり、頭の中のウィンドウを眺めていた。

【クエスト:ルナの心を癒せ】

【達成条件:ルナ・エルメシアに真実の愛を与える】

真実の愛、か。そんな大それたものが、僕に与えられるのだろうか。僕は彼女の孤独を利用している、紛れもない事実だ。元の世界に帰るという、僕自身の目的のために。

しかし、このクエストには、僕が元の世界に帰るための、具体的な方法が隠されているのかもしれない。僕は、このゲームのような能力を最大限に活用することにした。


「よし、まずはお菓子の材料でも探してみるか」


僕はベッドから起き上がり、アイテムボックスからスマホを取り出した。破損しているはずのスマホだが、頭の中のウィンドウでは「アイテム」として認識されている。僕は試しに、スマホの画面に触れてみた。すると、頭の中に新たなウィンドウが浮かび上がった。

【アイテム:スマートフォン(破損)】

【使用可能機能:情報検索、レシピ検索、アイテム変換】

「情報検索…?」

僕は思わず声を漏らした。まさか、このスマホが、異世界で「情報検索」の機能を持っているとは。僕は、この機能を使って、ルナの呪いについて調べてみることにした。

『ルナの呪い』、『愛の呪い』、『呪われた勇者の子孫』。

僕が心の中でそう念じると、頭の中のウィンドウに、膨大な情報が次々と表示されていく。その中には、ルナが語った過去の出来事や、呪いに関する学術的な考察、そして、呪いを解くための鍵となるであろう「真実の愛」に関する情報も含まれていた。

その情報を読み進めるうちに、僕は驚愕の事実を知ることになる。ルナの呪いは、彼女自身が作り出した、一種の精神的な防壁なのだという。彼女が愛する人を失うことを極度に恐れるあまり、無意識のうちに、その愛を独占しようとする「ヤンデレ」という形で、魔力を暴走させていたのだ。

そして、その呪いを完全に解くには、彼女が自らその精神の壁を壊す必要がある。そのための唯一の方法が、彼女に「真実の愛」を教えること。つまり、彼女が「愛を独占しなくても、愛されること」を、心から理解することだった。


「なるほど…そういうことか」


僕は、このクエストの本当の意味を理解した。これは、僕がルナを助けるふりをしながら、彼女を元の世界に帰るための道具として使う物語ではない。彼女が抱える孤独と向き合い、彼女の心の壁を壊すことで、初めて僕が元の世界に帰れる物語なのだ。

僕は、ルナの心の壁を壊すために、この「ゲーム」のルールを最大限に活用することにした。

翌朝、僕はルナを誘って庭に出た。庭には色とりどりの花が咲き誇り、鳥たちが楽しげにさえずっていた。しかし、ルナは庭の景色に目を向けることなく、僕の手を強く握りしめていた。その瞳には、外の世界に対する恐怖と、僕を失うことへの不安が入り混じっていた。


「どうして、庭に?」


ルナが不安そうに尋ねた。彼女にとって、この庭は、彼女の孤独を象徴する場所だった。


「僕が君に、この世界の素晴らしい景色を見せてあげたかったんだ」


僕がそう言うと、ルナは驚いたように目を丸くした。


「ですが、私は…」


「大丈夫。僕がいるから」


僕の言葉に、ルナは再び安堵の表情を見せた。僕は、彼女の心を癒すため、この庭で、彼女にこの世界の美しさや、人々の温かさを、少しずつ教えていくことにした。

僕は、この「クエスト」をクリアするために、ルナを操る術を学んでいく。彼女の心を満たす言葉、彼女の不安を取り除く行動、そして、彼女が最も欲している「愛」という名の餌を、僕は惜しみなく与えていく。


「クエスト:庭園の癒やし」


「達成条件:ルナ・エルメシアの笑顔を引き出す」


「報酬:親密度アップ」


僕の頭の中には、新たなクエストが表示されていた。僕は、ルナの笑顔を見るために、彼女が好きな花について話したり、この世界の鳥たちの鳴き声が、僕の元の世界に似ていることを話したりした。

最初は戸惑っていたルナだが、僕が楽しそうに話す様子を見て、少しずつ心を開いてくれた。そして、彼女が花を指さし、「この花は…アキラ様の色みたいで、とても綺麗ですわ」と微笑んだ時、僕は初めて、彼女の心からの笑顔を見た気がした。

その瞬間、僕の頭の中に、達成を知らせるウィンドウが表示された。


「クエスト達成!」


そして、ルナのステータスウィンドウに「親密度アップ」の文字が表示された。このゲームのような能力は、僕に彼女の心を攻略する方法を教えてくれる。まるで、複雑な恋愛シミュレーションゲームをプレイしているかのようだった。

僕は、ルナの心を掴むことで、彼女の呪いを解くことができる。そして、その先にある、元の世界への帰還という報酬を手に入れることができる。僕は、彼女の愛を利用し、彼女の孤独を救う。それは、偽善的な行為かもしれない。しかし、この世界で生き残るためには、これしかないのだ。

しかし、僕はまだ知らなかった。このゲームが、僕の心を少しずつ蝕んでいくこと、そして、いつしか僕自身が、彼女の愛なしでは生きていけなくなってしまうという結末を。

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