ヤンデレ公爵令嬢に懐かれました。どうやら彼女の呪いを解くには、僕がそばにいるしかないみたいです。

第5話 彼女の愛は、僕を外界から守る檻だった

翌日。僕はルナの屋敷で、この世界での生活を続けていた。

僕の目の前には、朝食を食べる僕の一挙手一投足に目を光らせるルナがいる。彼女の目は、まるで僕をこの屋敷から一歩たりとも出させまいとする、監視カメラのようだ。彼女は僕のコップに手を伸ばし、不安げに尋ねる。

「アキラ様、お飲み物はいかがですか？ 熱すぎませんか？」

「大丈夫だよ、ルナ。ありがとう」

僕がそう言うと、彼女は少しだけ安心したように微笑んだ。この過保護な行動が、彼女なりの愛情表現であり、僕を失うことへの恐怖からくるものだと僕は理解していた。そして、この「ヤンデレ」という名の愛の檻に、僕自身が徐々に慣れてきていることに気づき始めていた。

食事を終えた後、僕はルナに一つの提案をした。

「ルナ、一緒に街に出てみないか？」

僕の言葉に、ルナは目を大きく見開いた。その瞳はすぐに恐怖の色を帯び始めた。

「いえ…だめですわ。街は…危険ですから」

彼女は震える声でそう言った。彼女の過去のトラウマが、彼女をこの屋敷に閉じ込めているのだ。

「大丈夫。僕がいるから」

僕はそう言って、彼女の手を優しく握った。僕の頭に、新たなクエストウィンドウが表示される。

【クエスト：ルナを街に連れ出す】

【達成条件：ルナ・エルメシアと手をつないで街を歩く】

【報酬：経験値100、街の情報収集権】

このクエストをクリアすれば、僕はこの世界の情報をさらに得ることができ、元の世界に帰るための手がかりを見つけられるかもしれない。僕はルナを説得しようと続けた。

「ルナ、君が外の世界に慣れる必要があるんだ。僕たちがこの屋敷の外で生活する未来のためにも」

「私がまた…魔力暴走を起こしてしまったら、アキラ様を傷つけてしまうかもしれませんわ」

「僕は大丈夫。もし何かあったら、僕が君を守る

よ」

僕の言葉に、ルナは驚いたように僕を見つめた。彼女の瞳に、僕への信頼と、微かな希望の光が灯るのを感じた。

結局、僕はルナを説得し、二人で街へ出かけることになった。ルナはフードを深く被り、僕の手を強く握りしめていた。彼女の体は小刻みに震え、まるで、初めて外に出る幼い子供のようだった。

街は活気に満ち溢れていた。人々は笑顔で買い物をし、子供たちは楽しそうに駆け回っている。その光景を、ルナは不安げな表情で見つめていた。

「皆…私を怖がらないのですね…」

彼女がそう呟くと、僕は彼女の手を優しく握り返した。

「ああ。皆、君のことが好きだよ」

僕の言葉に、ルナは顔を赤くした。そして、僕の頭に、クエスト達成を知らせるウィンドウが表示される。

「クエスト達成！」

しかし、その瞬間、僕たちの目の前に、不審な男が現れた。男は僕を睨みつけ、ルナにこう告げた。

「お嬢様。なぜ、そのような男と…」

男の言葉に、ルナは僕の後ろに隠れ、怯えた表情を見せた。男の瞳には、僕に対する強い敵意が宿っているのが見て取れた。僕は、この男が、ルナの屋敷で使用人として働いていた男の一人だと気づいた。彼は、ルナの父親に仕えていた護衛だった。彼は、ルナが僕と一緒にいることに、強い不快感を示している。

「お嬢様は、世間知らずでいらっしゃる。このような者どもに、騙されてはいけません。さあ、屋敷へお戻りになりましょう」

男はそう言って、ルナの腕を掴もうとした。しかし、ルナは僕の後ろに隠れたまま、その場を動こうとしない。

「離れてください！ 私は、この方と…」

ルナの声が震えている。彼女の体から、再び紫色の禍々しいオーラが立ち上り始めた。僕はそのオーラが、以前よりもはるかに強いものであることに気づいた。

「この男から離れろ！」

僕は男の腕を強く叩き、ルナの手を再び握りしめた。すると、紫色のオーラは消え、代わりに淡いピンク色の光がルナを包み込んだ。男は驚き、僕を警戒するように一歩後ずさりした。

「貴様、何者だ…」

男は僕を鋭く睨みつけた。

「僕は、ルナの…」

僕は言葉に詰まった。彼女の何だ？ 恋人？ 友人？ 僕はただ、元の世界に帰るために彼女を利用しているだけだ。しかし、僕の頭の中には、ルナのクエストウィンドウが表示されている。

【クエスト：ルナを守れ】

【達成条件：ルナ・エルメシアの心の安全を守る】

【報酬：親密度アップ、新たなスキル獲得】

僕は、このクエストをクリアするために、ルナを守る必要がある。僕は、この男の敵意に満ちた視線を受け止め、ルナの前に立ち、こう言い放った。

「僕は、ルナを愛している人間だ」

その言葉に、ルナは驚き、顔を真っ赤にした。そして、男は激しく顔を歪ませた。

「貴様のような者どもに、お嬢様の愛を渡してたまるか…！」

男はそう言って、僕に襲いかかろうとした。だが、その瞬間、ルナの瞳から光が失われ、彼女の体が急速に冷えていくのを感じた。

「ルナ…？」

僕はルナの顔を覗き込んだ。彼女は、僕の腕の中で、意識を失っていた。