第13話 最愛の貴方と結婚したい
「ねぇリリー! 今日ねぇ! エヴァルトと出かけたんですけどもう来週には結婚するかもしれないですよ!! marriage! marriage! marriage!」
「もう二十回してる! もう二十回! その話もう二十回してる! 一昨日の夕方に貴女が屋敷に帰ってから……五十時間は経ってるわよ? 貴女二時間おきにその話してる自覚ある?」
「この興奮を何度でもリリーに味わってもらいたいんですよお……!」
「これからもする前提じゃない! やめて!」
「私スフィアァ〜リリーのお姉ちゃん〜好きな人とは何でも共有したいタイプゥ!」
「好意の化け物じゃない! それに歌劇みたいに接してこないで! っていうか手元見なさいよ! 貴女いま針持ってるでしょ?」
「私! 器用です! いてっ」
「馬鹿! ほんと馬鹿!」
リリーは怪訝な顔をした。「Magic Time!」と自分の手をささっと治癒の力で治すと、「楽しくない!」と一喝された。可愛い。優しい。私は編んだ髪紐にビーズを縫い付ける作業を再開すると、彼女はため息がちにこちらを見る。
「てっきり貴女のことだから毎日ジークエンドの子息のところへ転移魔法で飛ばせって頼んでくるとばかり思っていたのだけれど」
「エッ私に転移魔法を見せたくてうずうずしてるんですか?」
「違うわよ!」
「恥ずかしがらなくていいんですよ。でも、ごめんなさいリリー、私はこの髪紐を完成させるまで、彼とは会わないんです。今日には完成するので明日会いに行って渡しますけどね……」
「なに? もしかして会ったり会わないを繰り返して気を引くつもり?」
「いえ、連日会いに行ってしまうと付き纏いになってしまうかと思って」
「突然正気に……?」
エヴァルトとのデート……いや婚前お出かけから三日。私はおでかけの帰り際に手芸屋さんで買った紐とビーズで、彼に貢ぐ髪紐を編んでいた。乙女ゲームのシナリオでスフィアはそういうことをしていなかったから、これをプレゼントして彼にベタ惚れになってもらう作戦だ。
「というかリリー、刺繍のハンカチ、本当に前のものでいいんですか? 自信作ですけど……」
「いいわよ。花と猫とワニの刺繍なんて、誰もしていないから分かりやすいし」
「ふふ、今度はリリーの顔が刺繍されたハンカチをあげますね」
「やめて! 貴女技術は高いんだからどうせ写実的にする気でしょう!」
「リリー! 私とそんなに心を通じ合わすことが出来るようになったのですね!」
「そんなことないわよ」
「ようこそ、深淵へ」
「やめて! っていうか貴女自分の心のこと深淵だと思っているの!?」
「全く」
「きぃぃ!」
リリーはどうやら私がエヴァルトとお出かけをした結果、ほったらかしてしまったことに拗ねているようだ。今度刺繍するハンカチは、リリーだけじゃなく、リリー、私、リリーとリリーが私をサンドイッチにしている刺繍にしてあげよう。
「さーて、エヴァルトと結婚は確定したも同然だし、湖をどうやって埋立地にするかなーっと」
ごろごろと転がり、私は完璧なハッピーエンドを迎える計画を立て始める。
とりあえず、私はゲームであの子が見つける闇の魔物の召喚についての書物を見つけて燃やそうと思う。しかし、その書物を手に入れるためには精霊の力が必要で、今はできない。だから、必然的に闇の魔物を大量召喚する場となる湖をめちゃくちゃにすることが手順としては最初になる予定だけど、その名案が思い浮かばない。
私は防御、治癒、浄化と魔物以外への攻撃魔法が使えない。資料が発見されるであろう洞窟を、片っ端から潰して回れないし、埋め立てもできない。だから学園で攻撃の手段を覚える。そして彼と結婚するのだ。
「リリー、私は学園で、パワーを手に入れようと思います。湖をめちゃくちゃにするくらいの……」
「危険思想やめて。私はもう寝るから静かにしてちょうだい」
「大変おやすみのちゅーしてあげないと」
「やめて」
思い切りごろごろ転がってリリーのもとへ向かっていくと、彼女は思い切り布団にくるまってしまった。ベッドに寝ているから段差もある。今日は床で寝るかと伏せていれば、「人間はベッドで寝るの」と怒られ、私はにやにやしながらベッドにもぐりこんだのだった。
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