第10話 決着の時

「録音した証拠は他にもある」


 翔太がスマホを取り出す。


「お前が友人の小説家とやり取りしてたDiscordの履歴もスクショした。炎上を煽るために、どうやって協力し合ってたか、全部残ってる」


 雅也の顔から血の気が引いていく。


「それは...プライバシーの侵害だ!」


「お前が俺たちにしたことは何だ?」


 美咲も前に出る。


「この会話データ、全部警察に持っていきます」


 その瞬間、雅也の顔が醜く歪んだ。目は血走り、口元が痙攣する。美咲からの最後通告は、雅也にとって死刑宣告だった。


「ふざけるな!ふざけるなぁぁぁ!」


 雅也が翔太に殴りかかろうとした。


 だが、興奮のあまり足がもつれ、派手に転んだ。テーブルにぶつかり、書類が散乱する。


「押さえて!」


 プロデューサーと編集長が雅也を取り押さえる。


「離せ!離せよ!」


「君、落ち着きなさい!」


 雅也は暴れながら恨み言を吐き続ける。


「お前らなんかに何がわかる!俺がどれだけ苦しんだか!」


 そして美咲の方を向いて——


「お前だって俺のこと見下してただろ!いい子ぶりやがって!本当は俺のことキモいと思ってたくせに!」


「そんなこと——」


「黙れ!お前なんか、俺の小説の中でヤリまくってやったわ!本当は簡単に股開くんだろ?清純ぶってるけど、男が優しくすりゃすぐ落ちる女だろうが!」


 美咲の顔が青ざめる。


「お前みたいな女は全部わかってんだよ!表面だけ取り繕って、裏じゃ何人も付き合って、金もらってセックスしてんだろうが!」


 翔太の中で何かが切れた。


 美咲を、俺が大切に思っている人を、ここまで侮辱するのか。女性としての尊厳を踏みにじるような言葉を、平気で吐けるのか。


「てめぇ!」


 拳を握りしめて雅也に向かおうとする。


「待て、藤原」


 神山監督が翔太の肩を掴んだ。


「ここで暴力に訴えたら、彼をいじめていた連中と同じになる」


「でも...!」


「気持ちはわかる。だが、暴力じゃ何も解決しない」


 翔太は震える拳を下ろした。


 神山監督は雅也の前にしゃがみ込む。


「島田くん」


「なんだよ、てめぇ!」


 雅也は神山に向かって唾を吐いた。


 それでも神山は動じない。静かにハンカチで拭き取る。


「てめぇなんかに何がわかる!便所に顔突っ込まれたこともないくせに!金巻き上げられて、殴られて、それでも誰も助けてくれなかった!」


「君がとった方法は褒められたものじゃない。人を傷つけ、犯罪まで犯した」


「うるせぇ!正論振りかざしやがって!」


 雅也が顔を背ける。


「しかし、小説でランキングに乗れるようになるほど努力したのは間違いない。それはわかる」


「...」


「なぜ、その努力を正当なやり方に使わなかった?」


 神山監督の声は厳しくも、どこか優しさがあった。


「きちんと今回の件は反省してくれ。そのうえでいつか、自分の力だけでアニメ化まで行けるようやり直すんだ」


 雅也は何も答えなかった。


「ちくしょう...ちくしょう...」


 ただ泣き叫ぶだけだった。


 *


 1ヶ月後。


 深夜のファミレス。いつもの場所で、神山監督と向かい合っていた。


「島田雅也の処分、決まったらしいな」


「はい」


 名誉毀損とストーカー規制法違反。執行猶予付きの有罪判決が下りた。


「美咲も無事に仕事に戻れたって本人から連絡来ました」


「そうか、よかったな」


 神山監督が頷く。


「それで、今日は別の人も呼んである。ちょうど来たみたいだ。」


「え?」


 ドアが開き、見覚えのある人物が入ってきた。


 スタジオ・ブルームーンのプロデューサー、山田さんだ。


「藤原、久しぶりだな」


「山田さん...」


「まあ座れ」


 3人でテーブルを囲む。


「単刀直入に聞く。戻る気はあるか?」


 心臓が跳ねた。


「もちろんです!是非お願いします!」


 即答だった。


 神山監督が口を添える。


「島田雅也は、確かに方法を間違えた。だが、彼の小説の地力は本物だ。冷静に見て、クリエイターとしての才能は現時点だと彼の方がお前より上だと思う」


「...はい」


「監督になりたいんだろ?まずは演出助手からだな」


 山田プロデューサーが頷く。


「神山さんからも推薦してもらった。今回は演出助手として再雇用だ」


「本当ですか!」


 目頭が熱くなった。


「頑張ります!絶対に期待に応えます!」


 窓の外では、夜明けが近づいていた。


 新しい一日が、始まろうとしている。


(完)



 ここまでご覧になっていただきありがとうございました!


 今回の話がちょっと重かったので、次回作は軽い感じのラブコメを書いています。


 

 種子島から来た方言がきつすぎる美少女が満月の夜にサキュバスになって俺を誘惑してくる


 https://kakuyomu.jp/my/works/16818792440367487082/episodes/16818792440692454796


 是非合わせてご一読いただけると嬉しいです!

 改めてここまで読んでいただき本当にありがとうございました!


 引き続き新作も読んでいただけると嬉しいです。

 よろしくお願いします!

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【完結】いじめられっ子の書いた異世界小説の影響でいじめてた不良が現実でネットリンチされて、クラスメイトだった俺まで巻き込まれる話 財宝りのか @zaihou_rinoka

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