第9話 ネット小説家、島田雅也
俺は——島田雅也。24歳。
高校時代は地獄だった。いじめられ、馬鹿にされ、誰も助けてくれなかった。でも今は違う。俺の書いた小説が大ヒットして、ついにアニメ化の話まで来た。
まさか小説を書き始めてたった半年でここまで来るなんて。
大手アニメ制作会社スタジオ・グランドの本社ビルを見上げる。新宿の一等地にそびえ立つ40階建てのガラス張りのビル。ここに呼ばれるなんて、夢みたいだ。
俺の小説「異世界でクラスのクズどもにリベンジしつつハーレムを築く物語」を、書籍化すら飛ばしていきなりアニメ化したいと言うんだから。
自動ドアをくぐると、大理石の床が広がる立派なエントランス。天井は3階分はありそうな吹き抜けで、シャンデリアが輝いている。
エレベーターホールも広い。こんな場所、今まで縁がなかった。フリーターとして適当にバイトしてきた俺には、別世界だ。
でも、俺がここに呼ばれたのも、俺の才能のおかげだ。
受付で名前を告げると、すぐに担当者が迎えに来た。
「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
通された会議室は、壁一面がガラス張りで東京の景色が一望できる。テーブルには既に何人もの偉そうなおっさんたちが並んでいた。
「初めまして、出版部の——」
「プロデューサーの——」
「編集長の——」
次々と名刺をもらうが、どうせこいつら、何も作れないくせに立場だけで仕事してるような奴らばかりなんだろう。
一人だけ、見覚えのある名前があった。
「今回、監督をさせていただく神山です」
神山裕也。俺でも知っているアニメ業界では有名な監督。
プロデューサーが口を開く。
「投稿から1週間でいきなりランキング1位。以後もネットニュースになるほどの話題作なので、出版などの手順を踏むよりも一気にアニメ化で広げた方が良いという話を神山監督から伺いました」
神山監督が頷く。
「ただ小説が話題というよりも、ニュースサイトから火が付くという新しい話題の広がり方が、今の世相にマッチしてると思い、是非アニメ化したいと私からスタジオ・グランドに話を持ち込んだんです」
俺は興奮を抑えきれなかった。
「ありがとうございます!まさか、こんなに早くアニメ化の話が来るなんて!」
「作品について、詳しく聞かせてもらえますか?」
編集長が身を乗り出す。
「そうですね!この作品は——」
饒舌に語り始める。設定、キャラクター、今後の展開。みんな真剣に聞いてくれる。
そして話は核心に近づいていく。
「ところで、作中のいじめ描写がリアルすぎると話題ですが...」
「ああ、それは...」
俺は周りを見回した。
「ここからはオフレコということで」
みんなが頷く。
「正直、特定されやすいように書きました」
会議室の空気が変わった。
「奴らからのいじめは酷いものでした。便所に顔を突っ込まれ、金を巻き上げられ、殴られ蹴られ...それならば、あいつらは相応の罰を受けるべきだと」
興が乗ってきた。
「健司なんて、俺から総額で50万は巻き上げてますからね。恐喝罪ですよ」
「でも、ネットで炎上させて社会的に抹殺できた。同情する奴も多少はいますよ。でも、俺は事実を書いただけですから」
「俺の受けた屈辱に比べたら家族離散や、会社を首になったり、住所特定?その程度たいしたことないじゃないですか」
さらに続ける。
「それに、藤原翔太ってやつ。あいつは傍観者のくせに美咲と仲良くしてた。俺がいじめられているのをわかってたくせに。ひどくないですか?」
「だから俺は、あいつもストーカーとして書いた。まあ、現実ではそこまではしてなかったようですが、フィクションですし、美咲とも仲良くしてやがってましたから……結果、会社クビになったらしいですよ。ざまあみろって感じです」
「なるほど...」
「そして美咲...いや、ミサは僕のものなんです。確かです。しかし、それを邪魔する奴がいる」
もう止まらない。
「だから最近は彼女の行動を記録してるんです。朝何時に家を出て、どこで買い物して、誰と会って...全部把握してます。彼女を守るためですから」
「守る...ですか...」
「ええ、ストーカーみたいな奴から守らないと。まあ、本人には内緒で護衛してるようなものですけどね」
そこまで言ったところで、神山監督が突然立ち上がった。
「そうか...やはりお前は犯罪者だな」
「は?何言ってんだあんた」
「いいよ。二人とも入ってこい」
バン!
ドアが勢いよく開いた。
入ってきたのは——
藤原翔太と岡本美咲。
何故あいつらが?
翔太が前に出る。
「今まで話していたことは全部録音した!このくそストーカー野郎!警察に届けるからな!」
頭が真っ白になった。
これは、罠だったのか。
つづく
《次回予告》
「決着の時」
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