第24話 決壊
一度家に帰って装備を整えたオービスが現地調査に向かう。一緒に行きたがったスキウルスを連れて行くことになり、護衛にレオも引き連れる。カニスは調べ物があると言って自室に戻っていった。
オービスはスキウルスの動向を気にしながらポルン村の端にあるアトルム家へと向かう。領地内唯一の鉱山の麓。村の中心部からは少し離れているものの、村への道は綺麗に舗装されている。
週に一度ポルン村の一角で開店する鉱物を用いたアクセサリーの店がある。タルパの配偶者であるリリアンと娘のローサが経営している店で、そこへ安全に移動するためにと領民たちでこの道を舗装した。
その道を進んだ先。木造の家があったはずの場所。そこが大量の水によって地面が沈み、家と周辺の畑や土地を含めて全てが消え去っていた。
「これは、酷いな」
「はい。着の身着のままに逃げ出したので、店にあった荷物と鉱山の中に残っていた道具しかなくて」
「なるほどな。スキウルス様、ここより先は足元が不安定です。慣れないでしょうから、進むのであれば手をお取りください」
オービスはタルパと共に周囲をぐるりと探索し始める。スキウルスは躊躇うことなくその手を握る。レオも後ろからついて行きながら、スキウルスの歩行を補助する。レオでも歩きにくくぬかるんだ足場。オービスが崩れない場所を探し、その足跡を二人が辿る。
「ここです。ここの先にある岩盤を掘った瞬間、水が吹き出したのです」
タルパが指を差したのは、今年の頭に更なる坑道を開拓したいと申請が出されていた場所。掘り進めて行った先に水源があったらしい。
今も水がちょろちょろと溢れ出ていて、アトルム家が沈んでいったところにできた大穴に少しずつ水が溜まっていっている。まだまだ余裕はあるものの、いずれは決壊してしまうだろう。
「事前調査ではここに水源がある可能性は指摘されていなかったよな?」
深い息と共に吐き出された言葉にタルパの表情が固まった。
「は、はい。私はこの地の出身ではありません。ですがその分、ネルヴァ様とこの近辺について記された書物を確認したり、クリオ様と地盤の調査を行ったりと、綿密な計画書を作成しました」
「だよな。それは私も報告を受けているから、タルパのせいだと言うつもりはない。だから安心してくれ」
タルパはホッと息を吐く。しかしオービスの表情は晴れないまま。スキウルスはその手を少しだけ強く握った。
「オービスさん。実は少し心当たりがありまして。カニスに調査させている最中なので決定的なことは言えないのですが」
「心当たり、ですか。教えていただけますか?」
オービスの瞳に真剣さが光る。一行は一度ぬかるみから逃れて切り株に腰かけた。
「この辺りには、かつて活火山があったと言われているんです」
「活火山?」
そんな話は初耳で、オービスの眉間に皺が寄る。スキウルスは頷くと、領地とは反対側にある平地を指さした。
「この辺りでは一番の高さを誇ったと言われていますが、数千年前に爆発的な噴火を起こしました。そのとき、山自体は爆発によって崩壊し、さらさらとした溶岩が辺り一帯に広がって溶岩地帯となったと言われています」
「なるほど。その火山の近くに水源があったということですか?」
「はい。噴火で埋まったと言われていますが、その水源が今も残っていたと考えると、今回の事故の理由も付きます。この辺りは竜巻や河川の氾濫の影響もあって溶岩の地層がかなり深くに埋もれている状態ですから、かなり詳しく調べないと分からないと思います」
オービスはその言葉に深く考え込む。自身が納める土地とはいえ、数千年も前のこととなれば記録も残されていない。そんな古い記録は王家が管理する書架にしか残されていないだろう。
「スキウルス様、貴重な情報をありがとうございます。またカニスさんの調査が終わり次第情報をいただけますか?」
「もちろんですとも」
スキウルスはどこか照れ臭そうに微笑む。オービスはホッと息を吐くと、再び考え込んだ。
「この辺りに家を新築するには、確実に安全な地帯を探す必要がある。それまでの間は、タルパたちには店で過ごしてもらうことになるが、それでも大丈夫か?」
「はい。むしろその方が有難いです。あそこには簡易的ではありますがキッチンやシャワーもありますから」
「分かった。不足するものがあればいつでも、何でも言ってくれ。必ず協力しよう」
「ありがとうございます」
タルパは安堵の息を漏らすと、再び沈んでしまった家に視線を向ける。
「こんなにも簡単に、思い出まで消えてしまうなんて。思いもしませんでした」
「ああ。こんな事例は初めてだ。だが、とにかく、全員が無事で良かった。特にタルパ。激流に飲まれただろう?」
タルパはその言葉に小さく身震いをした。
「あの瞬間は、もう終わりだと思いました。ですが、運良く木に繋がっている蔦に手が届いたのです」
「それは、幸運なことだな。日ごろの行いの良さが出たのだろう」
オービスは穏やかに微笑み、タルパの背中を優しく叩く。
夕陽が沈みかけるまで、オービスとタルパ、レオは村へ水が流れないように防波堤を作った。そうしてようやく村に戻ると、今度はネルヴァが駆け寄ってきた。
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