第38話 入学準備もあと少しなんだがぁ?
㊳
「話しておかないといけないことがあるんだったよ」
下手したらリリアやご両親の命が危ないからねぇ。ちゃんと伝えておかないと。
「これから学園で一般的な魔法知識を学んでいくわけだけど、実は知ってることを秘密にしないと危ない知識もけっこう教えててねぇ」
「えっ……」
「まず魔力回路からの直接発動ね。これはたしか、ミリタリス帝国の方が秘匿してる技術だったかなぁ。違う名前と体型で同じ技術は他にもあるんだけど、危ないって意味じゃそこね」
あそこは色んなところに諜報員送り込んでるからねぇ。どこで聞かれるか分からないし、そういう意味じゃ一番気をつけないといけない。
魔法回路を使うまでならまぁ、まだ平気だけど、その状態から直接無詠唱で魔法を使ってみせるなんてことしたらアウトかなぁ。
「それから魔法効果の改変。これは大きい国は大抵把握してて研究してるから、命を狙われるっていうより引き込まれる危険だねぇ。下手に国の中枢なんか入ってみなよ。面倒くさいよぉ? 家族に会うのも難しくなるし。まぁ、その分給料はいいはずだから、これは後々考えてもいい」
現状のリリアの知識だとすぐ切られてもおかしくないけど。そうなったら、僕の方まで話が来そうでますます面倒くさい。
「あとこれは教えたわけではないけど、超級以上の魔法そのものね。一般には上級までしか認知されてない」
何日か前にちょーっと街中の学生さんの教科書を拝借して確認したから間違いない。上級が最上級ってしっかり書いてあったんだよねぇ。
本当はその上に超級や最上級ってあるんだけど。別の区分で禁忌魔法っていうのも。
「あ、そうだ。前にダンジョンでコペンの魔力を使った障壁の維持をしてもらったでしょ? あれも秘匿された技術の塊だから、扱いには注意して」
「わ、分かりました……!」
うんうん、しっかりメモ取ってて真面目だねぇ。でもそのメモは後で燃やそうねぇ。
パスワードメモした付箋を机の裏に貼っとくとか、命に関わる情報でそんなレベルのことしたらダメだよぉ?
あとは何だったかねぇ? 色々教えたけど、まだ基礎的な部分ばかりだったからこんなものだとは思うんだけど。
まぁ、何か思い出したら手紙でもだそうか。
さて、と。唐揚げのおかわりを作るかねぇ。
さっきからずっとフィアたちがテシテシしてくるから、HPが一割くらい減っちゃってるんだよねぇ。
「――くぁ……。今日もいい天気だねぇ」
見える限りだけど、雲はあまりないし、雨の気配はないかなぁ。
今日は学園の方に顔を出す予定だったから丁度いいねぇ。
「おはようございます、先生。準備は万端です!」
「早いねぇ。じゃあ僕もささっと準備してくるから、もうちょっと待っててねぇ」
この元気は、若さなのかねぇ?
おじさん、今の体になって寝る体力は戻ったはずなのに、習慣なのかどうも眠りが浅いんだよねぇ?
まぁ、さっさと準備してしまおうか。眠いけど、動いてる内に目は覚めるはず。
「おまたせ。それじゃあ行こうか」
「はい!」
凄くウキウキしてるねぇ。ここまでウキウキしてるのは珍しい。
まぁ、彼女の年齢で初めて学園に行くってなったら僕もこうなるかもなぁ。
無駄に緊張するよりはいいけどねぇ。
えっと、学園は街の中央の方だったねぇ。
正式名称、王立リヒリブラ学園。街の名前にもなってるように、この街そのものがリヒリブラ学園のためにあるんだってねぇ。
領主が推薦してきたって言うから、領主経営なのかと思ったら、国が母体なんだもの。正直驚いたなぁ。
まぁ、リリアの才は世界単位で見ても頭一つ抜けてるクラスのものだと思うから、そこを勧められるのも当然だとは思うけど。
「お、あそこだねぇ。門は開いてるみたいだけど、入っていいのかねぇ?」
門は、柵状の造りかぁ。赤坂の迎賓館もこんなのだった記憶があるよ。
その向こうに見えるのが学園の校舎だろうけど……ちょっとした城くらいあるねぇ?
綺麗な建物だ。ここからじゃよく見えないけど、ルネサンス様式に近い感じがするねぇ。
でもそれにしては窓が大きいものが多い気がするなぁ。
「どうなんでしょう……? あそこに門衛さんがいますし、聞いてみます?」
「ホントだねぇ。うん、聞いてみようか」
分からなかったら聞く。これは基本だからねぇ。
勝手に何かやられた方が問題になりやすくて困るんだよねぇ。質問したら怒られたって経験がある人なんかは勝手にやりがちなんだけど。
個人的には質問したことを怒る上司をまず罰してほしかったなぁ……。
おっと、思考がそれた。これはおじさんの集中力の限界のなせることなのかねぇ……?
門衛は、柵状になった門の両側に一人ずつ。まぁ、近い方に聞こうか。
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