第37話 秘密基地って難しいんだがぁ?

「これが今回の家」

「家、ですか……?」


 うん、まあ、見た目はただの物置だねぇ。百人乗っても大丈夫そうなやつ。


「開けてごらん」

「はい。……物置、ですね?」

「そう、物置」


 バーベキューセットとか椅子とか、一応入れてあるだけの物置だ。

 これを見たらどんな侵入者だって外れだと思うよねぇ。そこがミソなんだなぁ。


「じゃあ次は、扉の反対側を持って、軽く魔力を流しながら開けて」

「……えっ!?」


 ナイスリアクション。こういう素直なリアクションしてくれる子は可愛がりたくなるよねぇ。


「マジックバッグと同じ亜空間生成の技術を応用した家だよ。フィアたちがいるから、四、五人が問題なく暮らせるくらいの広さで作ってある。水なんかもちゃんと出るから、食料さえあれば十分暮らせるねぇ」

「凄いですね。寮じゃなくてこっちに住んでもいいくらいです」

「ダメダメ。学園まで少し距離があるし、社会性とはほど遠い物件だからねぇ」


 こんなところにリリアが住んでも、学んでほしいことは学べない。それに、彼女の同級生が遊びにきたりなんかしたら、また僕の家が溜まり場になっちゃうよ。

 ていうか僕が彼女の友達ならするね。おじさんの安息の地に若いキラキラは必要ないのさ……。


「それで、どうしてこんなにめんどくさい作りにしたんですか?」

「めんど、まぁ、ほら、秘密基地なんだから秘密感が欲しくてねぇ?」

「秘密感、そんなにいります?」

「いるでしょう!?」


 どうしてそんなに懐疑的なんだい? 普段はもっと素直なのに。

 やっぱり若い女の子にはこの良さが分からないのかねぇ?


 思えば、ゲーム時代も女性陣にはこういう部分呆れられてた気がする。男性陣は割とノリノリだったんだけどなぁ。

 寂しい話だねぇ……。


「でも、今回はまだ普通ですね。村の塀みたいに殺意があまりないっていうか。前の家もいつの間にか、凄く危ない結界とか罠とかが追加されてましたよね?」

「まあそうだねぇ。こっちはあの森ほど強いモンスターは出てこないし、主に使うのは僕やフィアたちくらいだろうからねぇ」


 カタパルトはあるけど、それ発着設備でしかないし。

 外殻になってる部分も、攻勢結界は付与してない。地面の下だからねぇ。ちょっと影響が大きすぎるんだよねぇ。


「せいぜい、上位竜にも通じる対空砲と対地竜用の亜空間爆弾があるくらいかねぇ?」

「すみません、訂正します。十分殺意ありました」


 安全に配慮しただけなんだけどねぇ?

 しかし、こうして説明してて思ったけど、わくわく感は前の家の方があったねぇ。これは秘密感にこだわりすぎたかなぁ?


 うーむ、秘密基地って案外難しいねぇ?


「ともかく、夕ご飯にしようか。フィアたちが待ちくたびれてるみたいだし」

「にゃっ!」

「んにゃぁっ!」


 途中から興味なくして湖の方で遊んでたもんねぇ?

 魚でも探してたんだろうけど、案外気に入ってたのかねぇ、あの干物。


 しかしそうか、ここで釣りができてもいい。どこかで捕まえてきて放流しようか?

 どうせ他の川や湖に繋がる水脈は魚が通れるような大きさじゃないし。


「んにゃぁ?」

「ああ、はいはい。ちょっと考え事してただけだよ。君らのテシテシってなにげに痛いんだからね?」

「んにゃ!」


 じゃあ早く作れと。仕方ないねぇ。どうしてこうワガママになっちゃったのか。

 いや、元々かなぁ? 猫だしなぁ。


 おっと、さっさと作り始めないとまた肉球ぺしぺしされちゃうねぇ。コペンでさえちゃんと僕の防御力と耐性貫通してHP削ってくるんだよねぇ。

 リリアたちにはちゃんと手加減してるみたいだからいいんだけど。


「何か食べたいものはあるかい?」

「私はなんでも。あ、でもうちの牛乳は飲みたいですね」

「んにゃっ!」


 え、コペンは唐揚げ?

 またヘビーな。ていうか唐揚げと牛乳って合うのかねぇ?

 

 まぁいっか。色々作って、自分で上手く調整してもらおう。初期村の住人に口内調理の概念があるかも知らないし。


 口内調理の概念はこの国のモデルになってるヨーロッパの方にはあまり無いらしいからなぁ。


「じゃあ、そっちのリビングで少し待ってて」



 まあ、こんなものかな。唐揚げにカブのスープ、それからサラダと街で買った白パン。僕用に魚も焼いたから、胸焼けせずに済むはず。


 リリアは教科書を読んで時間を潰してたみたいだけど、途中からコペンと遊んでたあたり、めちゃくちゃ邪魔されたんだろうねぇ。

 フィアはそのあたり汲んでくれるけど、コペンは気にせず乗ってくるからなぁ。


「できたよ!」

「はーい」

「んにゃっ!」

「コペン、あんまりリリアの邪魔したらダメだよ?」


 うん、首をかしげるのはずるいねぇ。自覚ないからだろうけど、これ以上言う気が失せる可愛さだよ。


「たくさん作りましたね。こんな豪華なのは家だと初めてです」

「ほぼフィアたち用だけどねぇ。向こうにいた頃のおやつはそれように作り置きしてたのをあげてたけど、ちゃんとした食事の時はこれくらい作らないと満足しないんだよ」


 唐揚げの山は、座ったら僕の顎辺りまできてるしねぇ。驚いて当然。

 こういうときの為にあらかじめ色々漬け込んでストレージに突っ込んであるんだよねぇ。


 それじゃあいただきますっと。

 うん、美味しい。けど、僕はいくつか食べたら満足かねぇ。


 あ、そうだ、お酒飲んじゃおうか。どうせこの辺に強いモンスターはいないし、フィアたちもいるし。


「……凄く強そうなお酒ですね」

「うん、ウィスキー。美味しいんだけど、この辺じゃ売ってなくてねぇ。リリアが成人したら少し分けてあげるよ。お父さんなんか喜ぶんじゃないかい?」

「あー、そういえばお父さん、大人になったら一緒に飲もうって偶に言ってきますね」


 やっぱりこの世界のお父さんもそうなんだねぇ。いや、まだ一例だけだから断じるのは早計なんだけど。


 そういえば最近は誰かと飲むってことしてないねぇ?

 当然なんだけど、一人で飲んでるのも寂しいと言えば寂しい。それも好きなんだけどねぇ。


 でも飲み会みたいなのは面倒くさい。それこそリリアのお父さんでも誘ってゆっくり飲むのもいいかもねぇ。


「それで、薬草採取の方はどうだったんだい? はかどったのかい?」

「一応は。でも、見分けるのに苦労するものも多いですね。授業が始まってから色々教わるんだとは思うんですけど……」

「村で使うものよりずっと種類が多いからねぇ。名前を覚えるだけでも大変だ。後で採ってきたヤツをみてあげるよ。ついでに食べられるやつも教えよう」


 大賢者に就くのに調薬系のクエストもしないとだったからねぇ。大学の講義より頑張って覚えたから、スキルの補助がなくてもけっこう分かる。


「ありがとうございます。でも、食べられるやつですか?」

「そうそう。お金に困ったときとか、旅の途中とか、それを知ってるだけでも生存率が変わるからねぇ。香草の類いなら料理の満足度も上げられる。知っておいて損は無いよ?」


 特に戦争イベントやサバイバルイベントの時はそれに助けられたからねぇ。貧乏学生時代も、道草で栄養を補ってた自覚がある。

 だって野菜が高かったんだよねぇ。MLOがしたいからバイトもそんなにたくさんはしたくなかったし。


 それで何度か食べちゃいけないのに当たって、お腹を下したのはいい思い出だねぇ。

 ああそうだ、いけないと言えば。


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