第36話 秘密感が大事なんだがぁ?

 今は、昼下がりも過ぎてもうすぐ夕方ってくらいかねぇ。紹介を終えたらそのままここで夕飯って感じかなぁ。


「先生、できたんですか?」

「にゃん?」

「うん、やっとねぇ」


 リリアたちの方は教科書と見比べながら薬草採取してたはずだけど、成果はどうだったのかねぇ。その辺も後で聞いてみようか。


 それよりも新しい家、という名の秘密基地のお披露目だ。いやぁ、いくつになっても、いくつ作っても秘密基地って心躍るねぇ。

 前のはみんな集まってきちゃってて、ちょっと秘密感なくなってるけど……。


「それで、どこにあるんですか?」


 ふふふ、探してるねぇ。そうだろうねぇ。

 分からないように別行動してたからねぇ。

 やっぱり秘密基地だからちゃんと隠れてないとだよねぇ。そういう意味でも前の家は失敗だったかもしれない。


「入り口はこっちだよ」

「こっち、って、大きな岩しかないですけど……もしかして」

「そう、そのまさかだよ!」


 大岩にある何の変哲もない窪みに手を添えて、特定の波長で魔力を流してやる。

 ツーツートントンツー、トントントン、ツートンツーツー、ツーツーツーツー、トントン、ツートントンツーっと。


 ちょっと長いけど、どうせ僕やフィアたちくらいしか開閉しないだろうし。なんだかんだ、神獣だからねぇ、彼女ら。物覚えが良いんだよ。


「そうやって開くんですね……。こんな大きな岩が音もなく割れてずれるのって、なんだか不思議です……」

「ゴゴゴって地響き立てながら開くでもいいかと思ったんだけどねぇ。なんだかんだ人が通ることある場所だし、秘密感を優先してみたよ」

「そういう問題なんですかね……?」


 ふむ、なんだか少し引かれてるようだねぇ?

 まぁ、分かってても止まらないのが少年心だけどねぇ。

 というわけでどんどん行ってみよう。


「今回の家はこの先だよ。薄暗いから、足下の気をつけて」

「あ、はい」

「ライトはいらないからねぇ」


 先の見えない階段に一歩踏み入れた瞬間、両側の壁に等間隔で灯がともる。イメージはあれだよ、某国民的RPGの三作目、あれのラスボスのところ。あれはちゃんと燭台が会ったと思うけどねぇ。


「人を感知して起動する魔法、ですか? 思ったよりずっと単純な回路なんですね」

「そうだねぇ。あまり複雑にすると訳分からないことになって他に干渉しかねないから、できるだけ単純化したんだよ」

「なるほど……」


 この辺のプログラムはゲーム時代に散々勉強したからねぇ。そのために大学の講義もとったり、教本も別で買ったりしたなぁ。


 ていうかリリアもそういうところには興味をもってくれるんだねぇ。嬉しいような、少し寂しいような。

 いやいや、まだ入り口しか紹介してないからねぇ。ここからだよ、ここから。


「けっこう降りますね。少しカーブしてる?」

「湖に影響ない深さにしたかったんだけど、思ったより深くてねぇ。カーブしてるのは侵入者の方向感覚を誤魔化すだよ。よく気がついたねぇ」

「侵入者、ありますかね……?」


 そもそもここを発見できるかっていう意味なら、どうだろうねぇ?

 けっこうしっかり隠蔽かけてるから、僕と同じ元プレイヤーでもないと気がつかないかもねぇ。

 

「まぁ、何事にも備えは大切だよ。何があるかなんて、誰にも分からないからねぇ」


 うん、凄く真剣に聞いてくれてる。本当はわりとただの趣味だなんてことは。言わなくていいでしょう。


 そろそろ一番下だねぇ。今度はちゃんと、まっとうに驚いてくれるはず。


「……うわぁ! 凄い、地底湖っていうやつですか!?」

「そうだねぇ」

「こんな場所、よく見つけましたね! 凄く綺麗です!」


 うっすら青く光る洞窟内と、その光を反射した一面の湖。空気中の魔力を吸収して青い光として発する鉱物による自然の照明だねぇ。

 けっこう柔らかな光だし、洞窟の様相と相まってなかなか神秘的だ。僕もとても綺麗だと思う。


 ただ、一つ訂正しておかないとねぇ。


「気に入ってもらえたみたいで嬉しいよ。頑張って作った甲斐があるねぇ」

「えっ、作った!?」

「湖に繋がる地下水脈をちょちょいっと弄くってねぇ。周囲の環境に影響が出ないようにするのに苦労したよ。それから防御機構を色々した付与した外殻で覆って、青魔光石を貼り付けていって……。ここが一番時間かかったんじゃないかなぁ?」

「本当だ。よく見たらそこかしこに魔力回路が……。いやでも先生、通ってる魔力量がおかしい気がするんですが……」


 ほう、気づいたねぇ。これにも二重の隠蔽がかけてあったんだけど。魔法的な隠蔽と魔光石による物理的な隠蔽。


「そんなことないよ? 本気のフィアでも簡単には突破できない水準を目指しただけさぁ」

「本気の神獣が簡単に突破できない水準……?」

「にゃぁ……」


 うんうん、ちゃんと常識があるっぽくて何よりだねぇ。

 フィアもリリアを見習って、試そうとしないでほしいんだがぁ?

 

 まぁ、僕ぁ常識なんて、知った上でかなぐり捨てるものだと思ってるけどねぇ。じゃないと、作れるものに限界ができちゃうと思うんだ。


「ここら辺は庭なんだけど、用途はまだ考えてないねぇ。せっかく綺麗に作ったし、魔法実験には使わないつもりだけど」

「そうですね、それがいいです! もったいない!」


 禁忌魔法や最上級魔法なんてぶっぱなしたら、この秘密基地ごと森の何割かは吹き飛ぶだろうしねぇ。

 それ以上の威力で作った独自魔法なんて、街も危ない。


 学園都市が地図から消えました、なんて事態は僕としても避けたいところだよ。何のために神獣捜索を引き受けたのか分からなくなるからねぇ。


「ちなみに、地底湖から地上の湖に繋がる通路も作ってある」

「えっと、脱出路ですか?」

「いや、カタパルトだねぇ」

「かたぱると……?」


 いずれは巨大人型ロボットとか飛行戦艦とか飛ばしたくてねぇ。

 まだそれそのものは作ってはないけど。


「それじゃあ家の方に向かおうか」

「くぁぁ……」


 フィアたちには退屈かもしれないけど、もうすぐご飯だからもうちょっと待ってておくれ。


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