第3話 仕事しなくてもいいっぽいんだがぁ?
③
「大丈夫かい?」
「あ、はい。私は……」
歳は、中学生くらいかな?
西洋人は日本人に比べて見た目に対する年齢が高めだけど、元がゲームだからねぇ。
まあ、ともかく女の子に怪我はなさそうだ。
問題は、猫のほうか。
「ふむ、酷い怪我だね……。【リトルヒール】」
ただの猫ならこれで十分だと思うけど……、あれ?
傷が塞がりきってない。
おかしいねぇ、これでも僕はそこらの大神官よりよほど神聖力が高いはずなんだけど……。
「【ヒール】」
ふむ、今度はちゃんと塞がってるねぇ。
うん? よく見たらこの子、神獣じゃあないか。
道理で。
真っ白な毛並みに、赤紫色の瞳。
この見た目なら、神獣ラインカッツェの幼体かねぇ。
推奨討伐MLにすると、たぶん二千五百くらい。
さっきのフォレストオーガジェネラルが相手だとさすがに辛かったかねぇ。
何にせよ、これで一安心だ。
「うん、これで大丈夫」
「ありがとうございます! ……きゃっ!?」
おっと。
元気になった途端女の子の腕の中から飛び降りるなんてねぇ。
やっぱり神獣だから気位が高いのかねぇ?
そのまま森の奥に消えていったよ。
「たぶん、親猫のところに戻ったんでしょうねぇ」
「そう、なんですかね……?」
女の子は不安げだけど、なんだかんだ、MLOの割と新しいメインストーリーを単独攻略できるようなレベルだからねぇ、あの子の推奨討伐レベルって。
心配はいらないはず。
フォレストオーガジェネラルだって、森で出てくるモンスターの中じゃ最強クラスなんだし。
それより、女の子の方が問題だ。
えっと、初期村の正式名称は……。
「君は、イアスタ村の子かな?」
「あ、はい」
「じゃあそこまで送るよ。森は危ないからねぇ」
ただの村人なんて、ML二十もあれば高い方だからねぇ。
あの巨大な死体については、後で考えようかねぇ。
緊急性のない面倒ごとは後回しするに限るよ。
変なことにならない限りだけど。
彼女を送り届けたら、これからどうするかも考えないとねぇ。
ふぅ、思ったより村、近かったねぇ。
ここは案外浅いあたりみたいだ。
しかし、そんな浅い場所にフォレストオーガジェネラルが出るとはねぇ。
ゲームの知識そのまま信じるのは危ないか。
「それはそれとして、これ、どうするかねぇ……」
解体はまあ、スキルでもあったからどうにかなるとして、オーガの肉なんて美味しくないよねぇ?
ゲーム時代の素材は骨と爪と角だったっけ。
あと、筋繊維と魔石か。
今の僕にはいらないものばかりだなぁ。
魔石はあっても良かったけど、壊しちゃったろうし。
「とりあえずストレージに入れておけばいいか。そのうち何かに使うでしょ」
換金できるならさっさとしちゃうんだけど、これ、そのまま持っていって騒ぎにならないかなぁ?
なる気がするなぁ……。
ML千でも一国の騎士団が動くレベルだったはずだし。
しかし、換金ねぇ。
身を立てる方法は考えないとだよねぇ。
ゲームならこのまま出発して次の少し大きな町に向かったんだけど。
初期村から数えて三つ目が領都だったかな。
そっちまで行っちゃった方が仕事はたくさんあるだろうし、こいつの素材も換金しやすいかぁ。
「……仕事かぁ」
また日本にいた頃みたいなブラック労働は困るなぁ。
傭兵稼業って色々不安だしねぇ。
そういう意味じゃサラリーマンって精神的には楽だったかもなぁ……。
都会っていうのもネックかねぇ。
あのセカセカした空気についていくの、そろそろキツくなってきてたし。
田舎でのんびりの方がいいよねぇ。
「うん? よくよく考えたら、別にここで自給自足しててもいいんじゃない?」
仕事してないと世間の目がとか考えちゃってたけど、そんなものここには無いね?
というか畑耕してる方がむしろ多数派では?
そして目の前には、ファイアボールでできた広場がある、と……。
「よし、ここに住んじゃおう」
あれだよ、スローライフってやつだ。
納期に追われることも、上司と現場の板挟みになることもない。
いやぁ、なんて素晴らしい生活。
ビバっ! スローライフ!
「……ふむ。食料はまだいくらかある。そうすると、まずは雨風を凌げる場所かねぇ」
つまり、家だ。
設計は僕の専門分野なんだけど、まあこの状況だ。
最初はそんな凝ったものは作れないかなぁ。
「まあ、まずは仮住まいの小屋かねぇ。小さいやつ」
たしか、建築師のスキルに【簡易建築】ってあったはず。
MPを消費して建材を操作し、簡単な建築物を作成するってスキル。
これなら僕一人でもそんなに大変じゃないはず。
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