第3話

日曜日、スマホで動画を見ながらゴロゴロしていると突然母に「夕飯ができるまで1時間ぐらい散歩でもしてきなさい」と追い出されてしまった。


午後5時を少し過ぎた時間は昼間よりは多少涼しいが、しばらく歩いていると流石に暑くなって汗が滲んでくる。

昨日の駄菓子屋に行ってアイスでも買って帰ろうか、と考えたけれど駄菓子屋はもう閉まっている時間だったっけ。


せっかく外を歩いたので何か冷たいものが買いたい。

ちょっと遠いけどスーパーまで歩くかと思った時、そういえば母が私がいない間にカフェが出来たとか言っていた事を思い出した。

スマホをジーンズのポケットから出し

”近くのカフェ”と検索すると少し歩いた所に

1店だけあったのでこれかなと思い行ってみることにした。


到着すると置いてあるカフェ看板の

’’かき氷あります’’の文字が目に入った。

私が思っているよりも体が冷たいものを欲していたのだろうか。

考える間もなく、気がつくと喫茶店のドアを開いていた。


カランカランという音と共に

「いらっしゃいませ」

と声がかかる。

お好きな席へどうぞとのことなので窓辺の端っこの席に着く。

店内はレトロ喫茶という感じで、ステンドグラスの窓にアンティークの置物などが至る所に飾ってあり、ラジオからはジャズが流れている。

おしゃれでいい雰囲気。

Tシャツにジーンズのラフな格好に一つ結びの髪がちょっと解けている私はこの空間で浮いていて、恥ずかしくなってきた。

せめて髪ぐらいはと結び直していたら店員さんが水とおしぼりとメニューを持ってきた。

手早く髪を結んで礼をし、

早速メニューを開くと目的の品を探しだす。

コーヒー、紅茶、あっクリームソーダもいいな、後はパスタにサンドウィッチ、どれも美味しそうだけど……。


「あった!」


小声でかき氷の写真の発見に喜びつつ何味にしようか考える。

いちご、ブルーハワイ、メロンの王道から

ティラミス、宇治金時と今っぽいのもある。

結構な種類があってどれにしようかなと視線を巡らせているとオレンジ色のかき氷が目に入った。

置いてあるベルをならす。


「えっと、この夏のみかんかき氷一つお願いします」


かしこまりましたと言って店員さんがカウンターに戻って行く。

昔を思い出して夏みかんを選ぶなんて我ながら単純だったかな。


海野くんとは中学校に上がってからは思春期特有のやつであまり話さなくなってしまい、高校に上がってからは学校も別だったため全く会わなくなった。

今はもうこの町にすら居ないんだろうか。


肩肘をついて窓のステンドグラスを眺めていると「お待たせしました」という声と冷たい冷気がやってきた。

山盛りの氷にたっぷりのシロップとみかんが乗っている。スプーンですくい口に入れると一気に体温が下がった気がした。


「生き返るわ……」


氷の冷たさとみかんの甘さが体に染みる。

急いで食べたら頭がキーンとなってしまうのでなるべく上品にゆっくり食べていると店内に流れていたオシャレなジャズが急にポップな曲に変わり、明るい挨拶が聞こえてきた。


「皆さんこんばんわ、夕暮れ町の夕暮レディオ。パーソナリティーの夕日がお送りしていきまぁす!」


夕暮れ町の夕暮レディオだ。

町のどこからでも聞こえてくる伝統文化的なこのラジオ番組。

私が町に帰って来た日にも家でかかっていて、まだやっていたんだと感動した。


「本日最初にお送りするのは皆さん大好き

『カラスの鳴かせてください』のコーナーです。このコーナーではリスナーこと”カラス”の方々から送られてきたみんなに聞いてほしい話を公共の電波を使ってお伝えする、そんなコーナーです。

鳴かせてくださいっ夕日さん、と言わんばかりのお話を募集させていただいてたくさんのおハガキやメールを……

いや、この夕日に向かってカーカーと鳴いて頂きました。

その中でも気になった何羽かのカラスの鳴き声を皆さんにお聞かせしていきまぁす」


最初のカラスは……と始まったことでラジオが18時から始まることを思い出した。


「やば、もうこんな時間だったんだ。

このカフェ何時までやってるのかな」


ポケットからスマホを出しカフェの名前を検索すると17時までの文字が見えてどきっとした

が、よく見ると夏の間は開店時間を少し遅くして18時半まで営業しているらしい。周りにも割とお客さんがいるしまだ大丈夫そうでよかった。

ほっとはしたが、母が夕飯を準備し終えているだろうからもう家に帰らないといけないな。

残っているかき氷を急いで食べ終え席から立ち上がろうとしたとき、ラジオから昔のあの懐かしいあだ名が聞こえた。


「続いてのカラスは、

ラジオネーム”サンゴ”さんの鳴き声です」

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夕暮れ町の夕暮レディオ 桜月 貴 @tks_us

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