第25話:焼肉

「最近、放課後どこに行ってるの?」


 昼休み。私ははじめと焼きそばパンを食べながらそう尋ねてみた。


 そういえば最近、朔といる時間が減ったように思える。生徒会活動では未来空先輩や篠原先輩と色々あったためとはいえ、放課後はそもそも朔はどこかに行ってしまうのだ。もちろん、事前に約束をしていたら一緒にいてくれはするんだけど。


「あ? 言ってなかったか? バイトだよ、バイト」

「はぁ!? バイト!?!?」


 私は思わず声を上げてしまう。朔が「なんだよ」とむっとした表情になる。


「職場で敬語とかちゃんとしてるの? 人間関係とか大丈夫……!?」

「あーうるせぇ! お前は母ちゃんか! ちゃんと敬語くらい使ってるわ!」

「だって、朔が私より先にバイトしてるなんて思わなくて……。でも朔、そんな素振り今までなかったよね? どうして?」

「うっせーな。貯金だよ、貯金! 将来に向けての!」


 貯金。まさか朔の口からそんな言葉が出てくると思わなくて、私は焼きそばパンを落としてしまいそうになった。慌ててパンを持ち直すと、しみじみと朔の成長を噛み締める。


 あの朔が、貯金。

 幼い頃に欲しい漫画があった時、なかなか両君におねだりできない私を見かねて朔がおごってやるって言ってくれたっけ。結局朔のおこづかい(187円)じゃ、足りなくて朔が泣きそうになって私が必死に慰めたのも今ではいい思い出だ……。そんな朔が、将来に向けて貯金をするためにバイトを始める。

 ……時間の流れって早いんだなぁ。


「ふふふ。と、いうことで今の俺は金を持ってんだよ! だから茉莉、今日の放課後は俺が奢ってやる! 肉を食べに行くぞ、肉!」

「え!? べ、別にいいよ。朔が頑張って稼いだお金なんだから、朔が使いなよ」

「いいんだよ、別に。俺がお前に奢りてぇの」


 そう言って胸を張る朔の姿が幼い頃に漫画を「奢ってやる!」と言ってきた時の幼い朔と重なった。

 ……うん、案外変わってなかったかも。少しだけ安心した。




***




 放課後、約束通り朔は私を中心街へ連れてきた。平日の夕方にも関わらず、中心街は相変わらずにぎやかだ。私達のように放課後に遊びに来る青空学園の生徒もチラホラいる。


「朔? どこ行くの?」

「いいから。さっさとついてこいっつーの」


 朔はそうぶっきらぼうに言った。


 ……それにしても随分と周りにカップルが多いな。この町はここぐらいしか遊ぶところはないから当然か。

 私は周りを見回しながら、そんなことをふと思う。


「茉莉」


 朔に呼ばれて、はっとする。気付けば腕を掴まれていた。


「ぼうっとしてんなよ。今、外灯にぶつかろうとしたぞ」

「あ、ごめん」

「ったく、気をつけろよ」


 私の腕を掴んだまま、朔はズンズン歩いていく。そんな朔の後ろ姿を何気なく見つめた。

 私達も、周りにカップルだと思われているのかな、なんて。


 結局、朔が私を連れてきた先はとある全国チェーンの焼肉屋だった。

 朔が既に予約していたらしく、結構並んでいたけれど、私達はスムーズに席に案内してもらう。テーブル席で一番高い食べ放題コースを平然と頼む朔に私は驚く。


「は、朔!? 本当に大丈夫なの!? 払える!? 私、こんなことで両君のお世話になりたくないよ?」

「大丈夫だって! 十分予算以内! 心配すんな」


 私の心配をよそに朔は既に肉に飢える狼のような鋭い目つきで店員さんにお肉を注文していく。さっそくお肉が店員さんによって運ばれてくると、素早く金網にそれらを乗せていった。そして、大好物を前に満面の笑みの朔。


「さ、今日はいっぱい食え! 九十分食べ放題だからな!」

「お肉……」


 私は誘う様に綺麗に焼けていくお肉と朔を交互に見た。よく分からないけれど、焼かれているお肉には罪はない。今日はお言葉に甘えて、楽しんじゃおう!

 私は朔とお肉を奪い合いながらも、ありがたくお肉を味わった。


 ──勿論、九十分丸々、である。

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