第14話
「君はどうして安倍さんに固執するんだ?他のものじゃダメだったのか?」
「別に私が望んだことではございません」
そもそもは安倍が持ちかけた契約。
本人同士が代償に納得したなら部外者が首を突っ込む話では無いのだろう。
しかし門野としてはここで引き下がるわけにはいかなかった。
「私の全ての力と同等の代償が、もう力の残っていない安倍さまにとってはご自身の御魂だった。ただそれだけの話です」
女は大声を張るわけではないが、その凛とした声には説得力がある。
「…それ、君はどうして私に話したんだい?」
本当は目的が別にあり、あえて自分に契約内容を話したのではないかと門野は疑っていた。
「そんなものございません。むしろ私より晴道さま、貴方様の方こそ言いたいことがあるのでしょう?」
思わず門野は息を呑んだ。
静かな夜が門野と女の全て包み込むように真っ暗で、池の中を生き物が動く音が大きく感じられる。
では1つだけ、と門野が指を1本立てると女はくすくすと笑った。
「1つと言わずおいくつでもどうぞ」
「安倍さんのその契約を私が引き継ぐことは出来るのかな?」
「晴道さまも私の力を必要とされているのですか」
そんなわけ無いだろうと言いたげに門野は苦笑いを浮かべた。
「安倍さんを返して欲しい、君に望むのはそれだけだ」
女は少し寂しそうな顔をした。その両目は門野を捉えていたが、一体何を考えているのかわかりそうにもなかった。
「では、安倍さまをお返しするとしたら晴道さまは私に何をくださるんでしょうか?」
「妖の欲しいものなんて人間の魂しか知らないよ」
「…まず私は妖では無いのです。元はその辺りを流れている川でした。それがいつしか人間たちの思念や思いが蓄積して、気付けばこのような姿になっていました。それに晴道さま程の力があって御霊をいただくとなると私が更に何か差し出さなくてはいけない。それだと代償が釣り合わないのです」
「では…私はどうしたらいいのか」
「それでは私からのお願いがございます。申し上げてもよろしいですか?」
門野はこの世の者じゃない相手に交渉するのだから…とそれなりの代償を覚悟した。
自分の命じゃないなら家か、従えている式か。
女が欲するものを持ち合わせてるとは到底思えなかった。
「晴道さまのお隣、その居場所をいただけますか?」
「私の…隣?」
釈然としない返答に眉を顰めた。
先程まで代償に魂を欲しいなどと言っていたのに、一体何を言い始めたのかと女をじっと見た。
「人には婚姻制度というものがあると聞いたことがあります」
門野は目をまん丸にして女の目を見た。
妖特有の妄言なのか何なのか、全く掴めなかった。
「貴方様が現世を去る時まで、とは申しません。私が他の場所へ移るまでの間です」
「そう言われても人の世界では書類を作って届け出ないといけない制度なんだよ。だから私が君にしてあげられることなんて…」
「では晴道さま、私と共に過ごしていただけるだけで構いません」
よろしいですか?と強引に女は話を進めた。
門野としては安倍を解放してもらう代わりの代償としては釣り合いが取れてないにも程がある、と思ったものの命を取られるぐらいなら…と渋々承諾したのだった。
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