第13話
痛いほど眩しい光に門野はぎゅっと目を閉じた。
頬に涼しい風を感じ外にいることを把握した。
辺りは真っ暗だと思ったが目が慣れるとどこかの庭園にいるのだと認識できる。
池の水面には月が反射してゆらゆらと輪郭が揺れている。庭はあっちこっちに植物が植えられていた。
無造作なようで考えられているような植えられ方。
門野の足元は泥濘み、さっきまで雨が降っていたような匂いが漂って来た。
「ここは一体どこなんだ」
「私の記憶の中にある場所です」
目を凝らすと暗闇の中に女が立っていることがわかった。街灯は全く無く、ただ月がぼんやり見えるだけ。現在門野たちが住む世界とは明らかに違っていた。
「君の記憶の中いるってことは、君自身のことを話してくれるということでいいのかな?」
それは違いますわ、と女はまた口元を隠して微笑む。
「私がお話すると言ったのは安倍さまの事よ」
「そうだね、ちゃんと話してくれないか?」
女はハッとした顔をして門野を見た。
何か変なことを言ったかい?と門野は聞き返す。
ポチャ、と少し離れた場所から蛙が池から飛び出す音がした。
何か言いたげな顔を見せたあと、女は話し始めた。
「この契約を持ちかけたのは安倍さまの方からだったのです」
「安倍さんから君に何かお願いをしたと?」
女は門野を顔を真っ直ぐ見たまま頷いた。
「そうです、あれはまだ冬至の時期でした。安倍さまは私が力を貸す代わりに、私が望むものを差し出してくださると」
「どういうことだ?」
「安倍さまは陰陽師の家に生まれ家名を守っていらした。でもある日ご自分から力が無くなっていくのを感じ、一時は視ることさえ危うくなったようです。ですが陰陽頭としてのお立場がそれを許さなかった。安倍さまはどうにかしようと私の力を欲したのです」
門野としては俄には信じられない話だった。
果たして目の前の女は本当に真実を語っているのだろうか。
「それで妖の力を借りて陰陽道を続けていたと?」
馬鹿げているが、門野にも心当たりがあった。
数年前に安倍の様子がおかしかった時期があり、しばらくすると元に戻ったことから気にとめてもなかった。
「君は力を差し出した。安倍さんは何を君に?」
「現世での努めが終わったあと、全てを私に差し出してくれるとおっしゃいました」
とんでもない条件に門野の目が大きく開く。
鬼や妖相手に交換条件で命を差し出す陰陽師だなんて聞いたことが無かった。
「君は知っているかもしれないが安倍さんは今、とある山神を鎮めるために自分の命をかけようとしているんだ」
「そのようですね。もしあの方が自分の全てと引き換えに呪術を行うならば私の力を全て差し出すということ。その代わりに私は安倍さまの御魂をいただきます」
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