第12話
「坂東さん!!」
すぐさま目の前の女を封じようとしていることに気付いた門野はそれを制止した。
一瞬、上着に入れた坂東の手が止まる。
2人の目線がお互いの顔を捉え、そのまま門野は顔を横に振った。
「今はだめです。彼女はなんらかの事情を知っている。それを聞くまではいけません」
「もしこいつの言うことが嘘だったら生きて帰れないかもしれないぞ?式でもない妖の言葉を鵜呑みにするなんて何考えてるんだ」
坂東の言うことはもっともで、嘘や幻覚で人間を騙すのは彼らの常套手段。一歩間違えれば2度とこの世に戻れないこともある。
陰陽師とは常に現世と黄泉の世との境目に立つ。
「晴道さま。本来は貴方に話すことも憚られます。でも安倍さまが1番信用しているのが貴方だからこそお話します」
「それを話したら君はどうなるんだ?本来呪術で契約したことは何があっても破ることは出来ない。万が一があったら君も無事じゃ済まないだろう」
隣で坂東は頭を抱えている。
はぁ…と深い深いため息が聞こえた。
「陰陽師が妖者の心配するなんて何考えてるんだ」
「…でも私はもう陰陽師ではないですからね」
勢いよく門野の胸ぐらを掴んだ。
その弾みでお互いの額がぶつかりそうになる。
襟元を掴む坂東の右手により力が入った。
「お前が何言おうとダメだ。あの世と現世の狭間にいる身なんだからわかるだろ?お前は人間として生きてるんだ。絶対妖にすり寄るんじゃない」
一言でも言い返したら殴られるんじゃないか、という迫力を感じた門野はわかりましたと返した。
ようやく襟から手を離す坂東。
「私が安倍さまの事ことをお話出来るのは晴道さまだけです」
門野はシャツに入れていた紙人形を1枚取り出した。自分の頭から髪の毛を1本だけ抜き紙人形の上にそっと置く。ぼそぼそと文言を唱えると墨が滲み出るように紙人形の体に門野の名前が浮かび上がった。
お前…と声に出しかけた坂東の言葉を塞いだ門野。
「坂東さんここで待っててもらえないでしょうか?もし私が迷ったらこの人形を目印にし帰って来ます。私が約束を違えることはありません」
それは現世に門野を引き留めておくための命綱だった。万が一何かあったときに、むこうの世界に意識だけが取り残されないように。
お願いです。そう坂東を見る門野の目は冷静であり目の奥に炎を宿らせているようにも見えた。
毛髪1本、門野の力があればそれだけでも大きな代償として術が行使出来る。
ポケットに入れていたケータイを取り出すと画面には21時少し前の時刻が表示されていた。
「わかった。必ず1時間以内に戻ってこい。絶対だ」
「絶対帰ってきます」
では参りましょう、女はそう言って門野の手を取った。坂東の目の前を突風が通過し目を瞑ったが、開けた次の瞬間に2人の姿は変えていた。
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