第3話
「数ヶ月前から東北の方にある山の山神様が瘴気を発するようになって、木が枯れたり訪れる人間にも害を成すようなった。それがどんどん悪化して一介の陰陽師には手が負えず陰陽頭の安倍さんが現地に向かった」
少数精鋭の陰陽寮を取りまとめる立場が陰陽頭の安倍。
由緒正しき血を引いてる安倍に力で勝てる者がいるはずもなく、実際に彼が陰陽頭に就任してからは落ち着いていた。
「本来なら安倍さんがすぐ片付けられる任務のはずだった。でも想像よりも事態は悪化していてただごとじゃなかった。それで安倍さんは覚悟を決めたらしい」
次の言葉が出るまでが長く感じた。
門野の手のひらがうっすらと汗が滲む。
「秋分までに収まらなかったら人生かけて封印をしようと」
「人生って…自分の命差し出すってことですか」
坂東の思いもしなかった発言に門野は呆然とした。
何があっても部下の人命を最優先に任務にあたってきた陰陽頭がそんな決断をするなんて門野には信じ難いことだった。
「坂東さん秋分までって言ってましたよね?」
壁にかけたカレンダーに目を向ける。
秋分は9月23日。
「今日20日だからあと3日しかない。坂東さん!あなた何でもう少し早く教えてくれなかったんですか」
「俺も今日の昼間聞いたばっかりだったんだ。電話かけようかと思ったんだけどこういうことは直接話した方がいいかと思って仕事の途中に立ち寄ってみたらお前がいなかったから書き置きを玄関に残したんだ。でもそうだな、もっと早く伝えるべきだった」
「いえ、私こそ勢いで失礼しました…」
勢いよく立ち上がった門野は再びソファに腰掛けるとふっと息を吐く。
こんなときに感情的になっても仕方ないのは陰陽師だったならわかって当然のことだ。
坂東は言いにくそうに下から目線を上げて門野を見た。
「門野に伝えたいのはここからなんだよ。安倍さんが何かと契約をしてるんじゃないかって噂が流れている。細かいことは何もわからない。門野何か聞いてないから?」
「私ですか?辞めてから会ってないので私は何も役に立たないかと思います」
この界隈で契約とは一般的に陰陽師と式の契約を指す。大抵陰陽師が従える式と契約を結ぶときは何らかの代償を払い、解約するか契約主の陰陽師が命を落とすまでが主従契約となることが一般的。
「門野と安倍さんって遠い親類なんだって?」
「えぇ、かなり遠縁すぎて他人ぐらいですよ。だからと言って私には思い当たる節はありません。別に安倍さんを匿っているとかそういう意味でもありません」
「そうかぁ…。門野ならもしかして何か知ってるかもしれないと思ったが的が外れたな。しかし吉野のこともある。山神を放置するわけにはいかない」
「私としても気がかりですが、詳細がわからないことにはどうすればいいかわかりませんね」
こんなに不確かな情報だけでは門野としても何も動くことが出来ない。
明日また坂東と会う約束をしてその日は帰ってもらった。
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