第4話
「晴道さま、お疲れのように見えますが大丈夫ですか?」
坂東を帰したあとぐったり座り込む門野を覗き込んだのは、先程コーヒーを運んで来た式の三月(みつき)だった。
三月は髪を後ろで1つに束ねている細身の容姿で、式もここまで実体化出来ていれば一見生身の人間と遜色ない。
陰陽師の家系で育った門野には家の中に式がいたり、他の人が見えないものが見えてる世界は普通だった。
しかし陰陽寮を辞め陰陽師でなくなった門野が式を従える、術を使うというのは本来御法度である。
心配そうに三月は手を伸ばしかけたが門野がそれを拒んだ。
「私は大丈夫だ…君ももう休め三月」
返事する声に覇気が無い。
力の抜けた体をどうにか動かし寝室へ向かった。
そして翌朝10時に坂東が迎えに来た。
昨日と違い大きなカバンを持っている。
「朝からわざわざすみません」
「いや、そんなこと気にするな。こっちだけで片付けられないことをお願いしてる立場なんだからな」
門野が助手席に乗るとすぐに車を発進させた。
昔はよく2人で移動するときにこうして隣に乗せてもらっていたが、門野は久しぶりに坂東の車に乗った。
「相変わらずちょっと運転荒いですね」
坂東はそれは悪いな、と笑いつつ悪びれる様子は無い。
9月後半とは言えまだまだ暑さが残りじめっとした湿気がまとわりついていた。
少し窓を開けると勢いよく風が入ってくる。
ちらりと助手席を見ると坂東が口を開けた。
「昨日の話だけど東北の山神様というのは女の神様らしく…まぁ神様ってより物怪だ。訪ねてくる人間にも害を成すと言ったが被害者は女性ばっかり、どういうわけか男は1人もいない」
「女性に対して怨みでもあるんですかね」
「さぁ…詳しいことは何もわからん。この後寮に今日安倍さんも来るらしいから少し顔出してみないか?」
日本の省庁は多くが霞ヶ関にあるが、陰陽寮だけ東京西側にある郊外に作られていた。
各方面から疎ましく思われているのだからあえて距離を離されても仕方がない。
「その山神様って言うのは何ですか?何か祀ってる霊山みたいなものですか?」
「元々は人間だったらしい。昔辺り一帯が飢えて穀物が育たなくなった時期がしばらく続いて、神に対して雨乞いの意味でその女性を人柱として差し出した。それから当面は雨に恵まれ豊作になったみたいだけど、自分を差し出した住人たちを彼女は恨んで恨んで人ならぬ者に変わったんだよ」
「恨みが呪いに転じた、ということですね」
「何でその山に居続けるのかはわからないが…やっと着いたぞ」
目的地に着くと坂東は車を停めた。
1年前まで毎日のように通っていた職場だった。
予算が少ないから相変わらず外観の手入れは無いようで古びたレンガ造りのまま。
その割にには護衛2名が門番として立っている。
「門野は久しぶりだよな、よし!行こうか」
坂東の後ろをついていくようにして中に入った。
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