第51話『私の罪』
私と結衣ちゃんの記憶。
今まで忘れていた。
いや、忘れようとしていた。
小学6年の夏。
廃屋での秘密集会。
神ちゃん信者の子供たち、15人くらい。
私も神ちゃんの声は聞こえた。
「だいじょうぶ」
「みてるよ」
優しい声。それだけで十分幸せだった。
でも結衣は違った。
「神ちゃんが言ってた。
明日は雨だから、傘を持っていってって」
みんなが結衣を見る。羨望の眼差し。
「神ちゃんに聞いたの。
○○ちゃんのお母さん、もうすぐ元気になるって」
結衣は対話ができた。
質問して、答えをもらえた。
姿も見えた。
時には手を握ることもできた。
「どうしたら対話できる?」
私は結衣に聞いた。
「○○ちゃんにも、きっとできるよ。
もっと信じれば」
結衣はいつも優しく答えてくれた。
でも、できなかった。
どんなに祈っても。
声は一方通行のまま。
中学入学式の日。
新しい信者たちが増えていた。
「神ちゃん様は今日何と?」
「私たちにもお言葉を伝えてください」
新入りの子供たちが 結衣を 囲む。
まるで 教祖みたいに。
私は?
古参信者。
でも ただそれだけ。
声が聞こえるだけの、凡庸な信者の一人。
その日の集会で、ついに 何かが 壊れた。
「みんな、騙されてる!」
私は立ち上がった。
声が 震えている。
でも 止まらない。
「結衣は嘘をついてる!
神ちゃんと対話なんてできない!」
結衣が 震える声で
「○○ちゃん...」
「私にも声は聞こえる。
でも一方的に聞こえるだけ。対話なんて妄想だ!」
みんなが 息を のむ。
「結衣は自分を特別に見せたくて嘘をついてる!」
その瞬間。
私の中で 何かが 切れる音がした。
プツン。
今まで聞こえていた神ちゃんの声が。
完全に。
消えた。
静寂。
恐ろしいほどの 静寂。
結衣は 涙を流しながら 私を見つめた。
そして 静かに 言った。
「○○ちゃんにも、本当は、できたのに」
その言葉が 今も 耳に 残っている。
現在。
山小屋。
記憶から覚めた私は、嗚咽する。
スクラップブックが 涙で 濡れる。
30年間、自分は「神ちゃんを卒業した」と思い込んでいた。
大人になったから。
現実を見るようになったから。
違った。
全部 違った。
嫉妬から 結衣と神ちゃんを 裏切った。
そして 罰として 能力を 失った。
スクラップブックの 結衣の名前が 血のように 赤く見える。
「ごめん...」
声が 漏れる。
「ごめんなさい...結衣ちゃん...」
膝が 震える。
「神ちゃん...」
床に 崩れ落ちる。
この罪は 普通の懺悔では 済まない。
命をかけた 贖罪が 必要だ。
体が それを 知っている。
魂が それを 求めている。
私は 立ち上がる。
ふらふらと。
でも 確かに。
これから 何を するべきか。
もう わかっている。
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