第50話『誰も知らない"場所"』
朝もやの中を歩いている。
山道は思ったより険しくない。
人の気配がまったくない。
朽ちかけた鳥居をくぐり、けもの道を進む。
足が勝手に動く。知っているみたいに。
Y字路を左へ。岩場をよじ登る。
すべて夢で見たとおり。
開けた場所に、小屋があった。
古いトタン屋根の小屋。
扉に鍵はない。
中は薄暗い。
木の棚に箱がひとつ。
開けると、手製のスクラップブック。
「たたかえ!みんなの神ちゃん 完全版」
子供の字で書かれている。
ページをめくる。
第1話 「神ちゃんあらわる!」
震える 線
でも ていねいに 写している
ひとりぼっちの 女の子
公園で 祈っている
「だれか たすけて」
光が 降りてくる
神ちゃんが 現れる
「きみの こえが きこえたよ」
「ほんとうに きてくれたの?」
「ずっと いたよ」
「きみが よんでくれるのを まってた」
「しんじて くれれば いつでも ここにいる」
女の子が 手を 合わせる
「ゴッドちゃん ありがとう」
「いのりは かならず とどく」
「みんなの なかに いる」
第6話 「みえないものを しんじる」
複数の 筆跡
みんなで 描いた
男の子が 神ちゃんに 聞く
「ゴッドちゃんは いつも どこにいるの?」
「ここにも いるし」
「あそこにも いる」
「きみの なかにも いる」
「でも みえない」
神ちゃんが 胸に 手を 当てる
「みえないものこそ たいせつ」
「あいも みえない」
「やさしさも みえない」
「でも ある」
「どうやって しんじるの?」
「まいにち はなしかけて」
「まいにち ありがとうって いって」
「そうすれば こたえが きこえる」
男の子が 目を 閉じる
手を 合わせる
「きこえた……きがする」
第11話 「やくそくの とき」
一人の 筆跡に 戻る
最後まで 丁寧に
子供たちが 集まっている
神ちゃんが 中央に 立つ
「もう おわかれの じかん」
「でも これは はじまり」
「どういうこと?」
「きみたちは もう しっている」
「いのりかたを」
「しんじかたを」
「あいしかたを」
神ちゃんが 透明に なっていく
「これからは きみたちが つたえる」
「つぎの こどもたちに」
「そのまた つぎの こどもたちに」
「でも ひとりじゃ むり」
「ひとりじゃない」
「みんな つながってる」
「おなじものを しんじる ひとは」
「じかんも ばしょも こえて つながる」
最後の コマ
子供たちが 輪になって 手を つなぐ
祈りの ポーズ
「いつか また あえる」
「つぎの せかいで」
「つぎの かたちで」
「それまで やくそく」
「つたえつづける やくそく」
下に 一言
「これが ほんとうの はじまり」
その先
ページが 切り取られている
きれいに
意図的に
そして メモ
便箋 一枚
まってたよ
35ねん
ながかった
でも しってた
だれか くるって
さいごは ない
だって もう
あなたが もってる
裏を 見る
名前が 10人
ゆうた
みき
たくみ
さやか
れん
ひろし
あい
そうた
なつみ
ゆい
ゆい
手が 止まる
ゆいちゃん
ここに いた
35年前
ここに いた
結衣ちゃん。
そのとき、
忘れていた記憶が、
あふれだす。
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