第47話『思い出せないひとたち』

証言収集記録

収集期間:2025年10月15日~10月17日

収集方法:電話取材、対面取材、メール

対象者:神ちゃん最終話を読んだと主張する人々

記録者:■■■■


証言者①:高橋■■(45歳・デザイナー)

「読みました。確実に読みました。小学4年の時です」

「どんな話だったか? それが……説明できないんです」

「でも、読んだ後の感覚は今でも覚えてます。胸が熱くなって、でも寂しくて、でも大丈夫だって思えて」

「泣きました。声を出して泣きました。でも悲しい涙じゃなかった」

「内容ですか? 神ちゃんがいて……子供たちがいて……」

「……あれ? 本当に絵があったのかな?」

「言葉があったのか、絵だけだったのかも……覚えてないんです」

「でも読んだんです。これだけは確かです」


証言者②:山本■■子(42歳・主婦)

「最終話、持ってました。友達から回ってきたコピーです」

「内容は……神ちゃんが、何か大切なことを言ってました」

「何を言ったか? それが思い出せないんです」

「でも、すごく優しい話でした。読んだ後、母に抱きついて泣いたのを覚えてます」

「母に『どうしたの?』って聞かれて、『神ちゃんが……』って言いかけて、言葉が出なかった」

「説明できなかったんです。でも、母もわかってくれた気がします」


証言者③:佐々木■■(43歳・教師)

「図書館で読みました。なぜか最終話だけ、ファイルに入ってたんです」

「ページ数は……8ページ? いや、1ページだったかも」

「一瞬で読み終わった気もするし、1時間かかった気もする」

「内容は、正直、言葉にできません」

「ただ、読み終わった後、『ああ、これで良かった』って思いました」

「完璧な終わり方でした。これ以外にありえない、という確信がありました」


証言者④:田中■■(41歳・会社員)】

「兄が持ってました。『これ、読んでみ』って」

「開いた瞬間、涙が出ました。まだ読んでないのに」

「なぜ泣いたか? わかりません。でも、懐かしくて」

「読み進めるうちに、どんどん記憶が蘇ってきました」

「この結末を、前から知ってた。読む前から知ってた」

「思い出したんです。忘れてたことを」


証言者⑤:渡辺■■(44歳・看護師)】

「最終話、読みました。でも、読んだのか、夢で見たのか、今となっては……」

「ただ、あの感覚は夢じゃない。現実です」

「光に包まれたような、温かい感じ」

「言葉も絵も覚えてないけど、メッセージは受け取りました」

「それだけで、十分でした」

「今でも、辛い時はあの感覚を思い出します」

「最終話を読んだ時の、あの『大丈夫』を」


証言者⑥:小林■■(43歳・自営業)】

「内容は、本当に覚えてないんです」

「でも、読んだ後、ノートに何か書いたのは覚えてます」

「『ありがとう、神ちゃん』って」

「きっと、何かを受け取ったんだと思います」

「うまく言えません。でも、守られてる感じ。見守られてる感じ」

「それが、今でも続いてる気がします」


【記者の記録】

全員が同じことを言う。

「確かに読んだ」

「でも内容は思い出せない」

「でも読後感は鮮明」


これは集団幻想なのか?

それとも——

いや、私も同じだ。


白紙のページを「読んだ」。

内容は、言葉にできない。


でも、確かに「読んだ」。

もう答えはわかっている。

最終話は、物語じゃなかった。

体験だった。


各自の内部で起きる、何か。

私は——

問うことしかできない。


これ以上、書くことができない。

ただ、問いだけが残る。

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