第46話『白紙のラストページ』
原稿検証記録
検証日:2025年10月14日
検証者:■■■■(記者)
対象物:神ちゃん最終話原稿
検証場所:国立国会図書館・特別資料室
【編集部アーカイブとの照合】
司書:「これは……確かに本物の原稿用紙ですね。1990年当時のコドモジャック出版指定のもの」
記者は——いや、私は原稿を広げた。
7ページまでは、完璧に印刷可能な状態。
セリフ、コマ割り、効果音まで。
8ページ目。
真っ白。
司書:「編集部の記録にも、このページについての言及がありません」
私は資料を確認する。
原稿受領リスト:「最終話7ページまで受領」
印刷所への指示書:「8ページ目は白紙のまま」
最終確認書:「これで完成稿とする」
なぜ誰も疑問を持たなかったのか。
【感想文アーカイブ(編集部保管)】
1990年3月末~4月初旬
読者からの感想文(最終話について)
※連載は中止されたが、一部読者には原稿が流出した模様
[読者A・小学3年生]
さいごは あんしんした
ゴッドちゃんが いなくならなくて よかった
これからも ずっと いっしょだね
[読者B・小学5年生]
なみだが でたよ
でも かなしくない なみだ
うれしくて でた なみだ
[読者C・小学4年生]
さいごの ページで わかった
ゴッドちゃんは もう よまなくても いる
だって もう ここに いるから
[読者D・小学2年生]
しろい ページが いちばん すき
じぶんで かける から
ゴッドちゃんと いっしょに かける から
【編集者の証言メモ(1990年4月5日付)】
「最終話の反響について」
不思議な現象が起きている。
8ページ目は白紙なのに、
読者全員が「読んだ」と言う。
しかも、内容は人それぞれ違う。
ある子は「神ちゃんが手を振ってた」
ある子は「みんなで冒険に出発した」
ある子は「静かに、さようならを言った」
でも共通しているのは、
全員が「満足した」ということ。
全員が「これで完璧」だと言うこと。
白紙のページが、
読者の数だけ、
異なる最終話になっている。
【心理学者による分析(1990年・内部資料)】
投影的完結現象と呼べるかもしれない。
未完の物語を、読者が無意識に完成させる。
しかし、この場合は少し違う。
読者たちは「読んだ」と断言する。
想像したのではなく、「そこにあった」と。
白紙のページに、
各自の理想の結末が、
まるで最初から印刷されていたかのように、
「見えた」のだろうか。
あるいは——
本当に、何かが書かれていたのかもしれない。
ただ、通常の方法では見えない何かが。
【観察記録】
原稿を前にして、私は考える。
8ページ目を見つめる。
白い。
何もない。
でも——
少し目を細めると、
光の加減で、
何かが浮かび上がるような。
「きみを ゆるすよ」
誰が? 誰を?
「ずっと いっしょだよ」
その言葉は、印刷されていない。
でも、見える。
いや、見えているのではない。
知っている。
最初から、知っていた。
【追記】
私は、最終ページを読んだ。
白紙のページを。
そこにあった物語を。
内容は、書けない。
言葉にできない。
なぜなら、それは言葉ではないから。
感覚。
記憶。
約束。
祈り。
すべてが溶け合って、
ひとつの「読み」になる。
私は理解した。
これが、神ちゃんの本当の力。
読者に委ねること。
読者と一体になること。
読者自身になること。
白紙のページは、鏡。
そこに映るのは、読者自身の物語。
読者自身の神ちゃん。
読者自身の——
私は、もう記者ではない。
ただの読者。
いや、それ以上の何か。
物語の、一部。
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