第37話『神ちゃん読本:児童用副読本』

資料発見記録

発見者:■■■■

発見日:2025年9月16日

発見場所:国立教育政策研究所・教育図書館 閉架書庫

資料番号:1990-臨-0234(未公開資料)


『みんなで読もう!神ちゃんのやさしいことば』

編集:コドモジャック出版 教育事業部

発行予定:1990年3月(未発行)

対象:小学校低学年および保護者

判型:A4判 全32ページ(草稿)


はじめに(保護者の皆様へ)

お子様に大人気の『たたかえ!みんなの神(ゴッド)ちゃん』から、

心を育てる"やさしいことば"を集めました。

神ちゃんは、いつも前向きで、思いやりにあふれています。

お子様の情操教育に、ぜひご活用ください。

※赤ペン修正:「断定的すぎる。"参考程度に"と入れるべき」


第1章 あいさつをしよう


神ちゃんのことば①

「おはよう きょうも いいひだね」


みんなも あさは えがおで あいさつしましょう。

ゴッドちゃんは いつも みています。


※赤ペン:「"いつも みています"は監視を連想させる」


れんしゅうもんだい

つぎの ことばを こえに だして よみましょう。

1.だいじょうぶ だいじょうぶ

2.みんな ともだち

3.しんじて いれば かなうよ


※赤ペン:「"しんじていれば"は宗教的すぎる。削除」


第2章 やさしいきもち


神ちゃんのことば②

「ないてる こが いたら そばに いてあげて」


こまっている おともだちを たすけましょう。

ゴッドちゃんが よろこんで くれます。


※赤ペン:「誰かの承認を求める構造は依存的」


神ちゃんのことば③

「ひとりじゃないよ ぼくが いるから」


さびしいときは ゴッドちゃんを おもいだして。

いつでも どこでも まもって くれています。


※赤ペン:「現実の問題から目を逸らさせる危険性」

※追加赤ペン:「これは実在しない存在への依存を促している」


第3章 ただしいこと


神ちゃんのことば④

「うそは つかない やくそくだよ」


ただしいことを することが たいせつです。

ゴッドちゃんは ぜんぶ しっています。


※赤ペン:「全知の存在による監視。恐怖で縛る」


神ちゃんのことば⑤

「まちがえても いいんだよ つぎは できるから」


しっぱいを おそれないで。

ゴッドちゃんが みまもって います。

でも おなじ まちがいは しないでね。


※赤ペン:「最後の一文で脅している」

※追加メモ:「肯定と否定の使い分けが巧妙」


第4章 みんなでいっしょに


神ちゃんのことば⑥

「なかまはずれは だめだよ みんな たいせつ」

でも ゴッドちゃんを しんじない ひとは——


(ページ破損)


※赤ペン:「ここから先の内容は危険」


特別ページ:ゴッドちゃんとのやくそく


□ まいにち ゴッドちゃんの ことばを よみます

□ こまっている ひとを たすけます

□ うそは つきません

□ ゴッドちゃんを しんじます

□ ともだちにも おしえて あげます


※赤ペン:「これは信仰告白では?」

※別の赤ペン:「子供に署名させる欄があった形跡」


編集者メモ(草稿余白)

・PTA向け説明会 3/15予定 → 中止

・文科省から指導 → 要対応

・印刷所が難色 → 別の所を探す

・作者からクレーム → 「これは神ちゃんじゃない」


巻末:保護者向けQ&A(草稿)


Q:子供が「神ちゃんが言ってた」と言うのですが?

A:想像力豊かな証拠です。やさしく見守ってあげてください。


※赤ペン:「問題の本質から逃げている」


Q:宗教的な内容ではありませんか?

A:あくまで道徳教育の一環です。特定の宗教とは無関係です。


※赤ペン:「明らかに嘘」


Q:子供が夢に神ちゃんが出ると怖がります

A:(回答部分切り取られている)


※赤ペン:「回答不能だったのか」


最終ページ(赤ペンのみ)


大きな赤文字で:


「これは"やさしさの仮面"ではないか?」


「命令」を「お願い」に

「支配」を「見守り」に

「恐怖」を「安心」に


言い換えているだけだ。


子供たちは気づかない。

いや、大人も気づいていない。


この本を世に出してはいけない。


でも、もう遅いのかもしれない。

子供たちはすでに——

(以下、インクが滲んで判読不能)


記者による後日調査メモ


この副読本は結局発行されなかった。

しかし、内容の一部は読者投稿ページや付録に形を変えて掲載された形跡がある。


国会図書館で当時の議事録を確認したところ、

1990年2月の文教委員会で、この副読本が問題視されていた。


「児童の精神的自律性を阻害する恐れ」

「擬似宗教的な依存関係の構築」

「集団心理を利用した思想統制の危険性」


だが最も恐ろしいのは、赤ペンを入れた編集者のその後だ。


彼は1990年3月、突如として出版社を去っている。

退職理由は「一身上の都合」。


追跡調査の結果、彼は現在、ある山間の町で小さな書店を営んでいる。

児童書は一切置いていないという。


「子供の本は、もう扱えません」


電話取材でそう答えた彼の声は、

どこか怯えているようだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る