第23話『神ちゃんのいるほうに いこう』

千葉県警察署 事案記録

発生日時:1990年2月7日(水)16:30

事案番号:90-0207-043

記録者:巡査部長 佐藤


概要

被保護児童4名、徒歩逸脱距離計3.2km

発見場所:県道47号線付近の農道

通常通学路からの最大逸脱:3.2km


児童:

A(8歳女児・小2)

B(9歳男児・小3)

C(8歳女児・小2)

D(7歳男児・小1)


16:30 通行人より通報

16:45 現場到着、児童保護

17:00 保護者へ連絡

17:30 事情聴取開始


聴取記録(抜粋)

Q:なぜここまで来たのか

A児:「そっちにいくって きめたから」

B児:「ゴッドちゃんが いるほうだから」

C児:「みんなで いこうって」

D児:(無言・頷くのみ)


Q:誰かに連れて行かれたのか

全員:「ちがう」「じぶんで あるいた」


Q:どこに行くつもりだったのか

A児:「わからない でも そっち」

(北東方向を指さす)


Q:家に帰ろうと思わなかったのか

B児:「かえるより だいじなこと」


保護者の手記(A児の母親)

警察から連絡を受けた時、心臓が止まるかと思いました。


娘は最近「神ちゃんが呼んでる」と言うことが増えていました。

でも、子供の空想だと思って……


警察署で娘に会った時、

娘は笑顔で「ごめんね」と言いました。

でも、反省している様子はなく、

むしろ「邪魔された」という顔でした。


帰りの車内で聞きました。

「どうしてあんな遠くまで行ったの?」

「だって ゴ——」


(ここに修正テープの跡)


「だって いきたかったから」

娘はそう言い直しました。


でも、最初は確かに「ゴッドちゃん」と言いかけた。

その名前を出すなと、

警察の人に言われていたので、

娘にも口止めしました。


翌日から、娘を学校に送り迎えしています。

でも、目を離すと、

また北東の方角を見つめています。


「まだ いきたいの?」と聞くと、

「うん よんでる」と。


誰が? とは、もう聞きません。

聞くのが、怖いから。


子供のメモ帳(B児の所持品)

2がつ7にち


きょう ゴッドちゃんのほうに いった

とおくまで あるいた

たのしかった


みんなも いっしょだった

だから こわくなかった


そっちに いくって いったから

やくそくだから

まちがいじゃないよ

まちがいじゃないよ

まちがいじゃないよ


おとなが とめた

でも まちがいじゃない

ゴッドちゃんが まってる

ぜったい まってる


また いく

つぎは もっと とおくまで

つぎは つくまで


どこに?

わからない

でも わかる

いけば わかる


学校の対応記録

2月8日 緊急職員会議

議題:児童4名の集団離脱について


校長:「これは誘拐ではないのか?」

教頭:「児童は全員『自分の意思』と証言」

担任:「最近、休み時間に集まって北を見ている」

養護教諭:「『神ちゃんごっこ』と呼んでいるようです」


決定事項:

1.該当児童の下校時見守り強化

2.スクールカウンセラーの派遣要請

3.「神ちゃん」関連の言動を記録


2週間後の記録(2月21日)


追加事案3件

延べ11名の児童が「北東方向への逸脱」


最長逸脱距離:5.8km

全員が同じ方向(北東)を目指していた


児童の証言(共通):

「そっちから よばれてる」

「いかないと おいていかれる」

「みんなで いこう」


記者の補足


この出来事は、児童間で「神ちゃんの指示」として語られていた。


ある児童の日記(2025年に発見):

「ゴッドちゃんが ちずを おしえてくれた

あたまのなかに ちずが ある

そっちに いけば あえる」


北東3.2km地点には、

廃寺があった。

1990年3月に取り壊された。


作業員の証言:

「子供の落書きがたくさんあった」

「『ゴッドちゃん ここ』とか」

「『まってて』とか」


そして、本堂の奥に、

小さな祭壇のようなものがあった。

神ちゃんの切り抜きが、

円形に並べられていた。


その中心に、子供の字で。

「もうすぐ くる」

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