第24話『つれてってあげた』

東京都児童相談所 報告書

受理日:1990年3月28日

事案番号:1990-0215-T-012

担当:児童福祉司 田中(仮名)


相談概要


被害児童:山本ゆうき(仮名・9歳・小3男児)

加害児童:同級生5名(全員をG氏と仮称)

事案:集団による強制登校

発生日:1990年3月26日(月)


保護者(母親)からの相談により受理。

不登校児童が同級生により強引に登校させられた件。

児童は精神的ショックにより不登校が長期化。


事実関係

3月26日 午前7:30頃


ゆうき君は1月から不登校状態。

自宅にて母親と朝食中、玄関チャイムが鳴る。


同級生5名が訪問。

「いっしょに がっこう いこう」

母親は断るも、児童らは玄関に入り込む。


「G氏(仮名)が そういったから」

「つれていってあげなきゃ」

「やさしいことだから」


ゆうき君は泣きながら拒否。

しかし5名は両腕を掴み、引きずるように連れ出す。


母親が制止するも、

「だいじょうぶです」

「ちゃんと まもります」

と言い残し、登校。


学校での状況

8:15 学校到着


ゆうき君は泣き続けていたが、

5名は「えらいね」「がんばったね」と褒め続ける。

教室に入ると、他の児童も拍手。


担任教諭の証言:

「異様な光景でした。泣いている子を囲んで、

みんなが『よかった』『もどってきた』と。

本人の意思を無視した集団行動でした」


ゆうき君は1時限で早退。

以降、登校できていない。


加害側児童の作文(学校提出・原文ママ)

「やさしいことをした話」 3年2組 (氏名削除)


きのう、ゆうきくんを がっこうに つれてきました。


ゆうきくんは がっこうに こなくなってました。

さびしいし しんぱいでした。


でも G氏(仮名)が おしえてくれました。

「つれてきてあげれば いいよ」

「それが やさしさだよ」

「ともだちだから たすけてあげて」


だから みんなで いきました。


ゆうきくんは ないてました。

でも それは うれしなきだと おもいます。

ほんとうは がっこうに きたかったから。


おかあさんも ないてました。

それも うれしなきだと おもいます。


わたしたちは いいことを しました。

やさしいことを しました。

ゆうきくんを たすけました。


でも せんせいに おこられました。

なぜか わかりません。


やさしいことを したのに

なぜ おこられたのか

わかりません。


G氏(仮名)も 「ただしいことだった」って。

「しんじてれば わかる」って。


わたしは ただしいと おもいます。

つぎも だれか こまってたら

つれてきて あげたいです。


児童相談所の見解


これは「啓示的行動」の典型例である。

自分が正しいと思い込み、

他者の意思や自由を無視する行為。


特に問題なのは、

加害児童に罪の意識が全くないこと。

むしろ「善行」として認識している。


G氏(仮名)の影響下で、

児童らの倫理観が歪められている可能性が高い。


母親の証言(追加聴取)

「一番恐ろしかったのは、あの子たちの目でした」


「悪意は全くなかった。

本当に『いいこと』をしていると信じていた。

だからこそ、恐ろしかった」


「息子は今、

『また来る』

『つれていかれる』

と怯えています」


2025年の追記


山本ゆうき氏(44歳)を探したが、

住民票の記録が1995年で途切れている。


同級生の証言:

「中学で再会した時、彼は別人のようだった。

いつも笑顔で、でも目が死んでいた。

『もう大丈夫』としか言わなくなっていた」


別の同級生:

「高校の時、彼が言ったんです。

『あの時、本当は助けてほしかった』って。

『でも、もう遅い』って」

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