第19話『インタビュー03:カズミ(仮名・43歳・元介護職)』

インタビュー記録

実施日:2025年4月2日 10:00-11:30

場所:カズミ氏自宅(関東某県)

記録方式:ICレコーダー+写真記録(本人許可済)


音声記録[00:00:00]

記者:お母様の写真も見せていただいて、ありがとうございます。

カズミ:いいえ、こちらこそ聞いていただけて。誰も信じてくれないから。でも、本当のことなんです。

記者:1990年の出来事ですね。

カズミ:はい! 3月です。覚えてます。母が原因不明の病で、医者にも見放されて。私、10歳だったんですけど、毎日泣いてました。


[00:00:48]

記者:神ちゃんとの関係は?

カズミ:大好きでした! 毎月楽しみにしてて。特に最終回が近いって聞いて、すごく悲しくて。母の病気と重なって、もう世界が終わるような気持ちでした。

記者:その時に、何が起きたんですか?

カズミ:(明るい声で)奇跡が起きたんです! 本当の奇跡が!


[00:01:25]

記者:詳しく聞かせてください。

カズミ:2月14日の夜でした。バレンタインデーだったから覚えてます。病室で母の手を握っていたら、突然、声が聞こえたんです。

記者:声?

カズミ:神ちゃんの声でした。「だいじょうぶ」って。「もうすぐよくなるよ」って。はっきり聞こえました。


[00:02:03]

記者:それで?

カズミ:信じられないかもしれませんが、翌朝、母が目を覚ましたんです。それも、すごく元気に。医者も看護師さんも、みんな驚いてました。「医学的にありえない」って。

記者:検査結果は?

カズミ:疾患部が、消えてました。完全に。跡形もなく。


[00:02:44]

(写真を見せる)

カズミ:これが退院の日の写真です。見てください、この笑顔。きっと、信じてたから。神ちゃんを信じてたから、助けてくれたんだと思います。


[00:03:15]

記者:お母様も神ちゃんを?

カズミ:それが……

(突然、声が途切れる)


[00:03:28]

(長い沈黙・約20秒)


[00:03:48]

カズミ:その日から、母は、

(また沈黙)


[00:04:02]

記者:お母様は?

カズミ:(声が変わる)覚えてないんです。何も。

記者:病気のことを?

カズミ:病気も、入院も、私のことも……最初は。


[00:04:31]

記者:記憶喪失?

カズミ:違うんです。生活に必要なことは覚えてる。でも、過去1年間だけが、きれいに消えてるんです。神ちゃんが連載してた期間と、ぴったり一致して。


[00:05:08]

記者:それは偶然では?

カズミ:そう思いたいんですけどね。でも、母は時々、寝言で言うんです。「ありがとう」って。「やくそく、まもったから」って。

記者:誰に対して?

カズミ:わからないんです。聞いても「知らない」って。でも——


[00:05:52]

カズミ:(語尾が自己疑念的に)本当に奇跡だったんでしょうか。

記者:どういう意味ですか?

カズミ:母は生きてます。でも、母じゃないような……いえ、母なんですけど、なんて言えばいいのか。


[00:06:28]

記者:変わってしまった?

カズミ:(小さく)交換された、あ、いえ、違います。忘れてください。


[00:06:55]

記者:「声を聞いた」のはカズミさんだけでしたか?

カズミ:はい、私だけでしたかね。

記者:今、疑問形で?

カズミ:えっと、覚えてないんです。確かに聞いたはずなのに、どんな声だったか、思い出せなくて。


[00:07:34]

記者:でも、神ちゃんの声だと。

カズミ:そう……だったと思います。たぶん。きっと。

(不安定な笑い声)

カズミ:おかしいですよね。あんなにはっきり聞こえたはずなのに。


[00:08:12]

インタビュー後の補足メモ

カズミ氏の母親(72歳)にも短時間会った。

確かに健康そうだったが、目が——

うまく表現できないが、「見ているけど見ていない」ような。


カズミ氏が見送りに出た際、

母親が窓から手を振っていた。

誰もいない空に向かって。

そして、確かに聞こえた。

「ありがとう」という言葉が。

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