第13話『インタビュー01:なっちゃん(仮名・44歳・主婦)』

インタビュー記録

実施日:2025年3月22日 14:00-15:30

場所:都内カフェ(本人希望により詳細非公開)

記録方式:ICレコーダー(SONY ICD-UX570F)


テープ起こし[00:00:00]

記者:本日はお時間いただき、ありがとうございます。

なっちゃん:いえ、こちらこそ……あの、仮名で大丈夫ですよね?

記者:もちろんです。プライバシーは厳守します。

なっちゃん:(小さく笑う)すみません、過敏になってて。家族が……今でも神ちゃんのこと話しちゃダメって言うんです。


[00:00:42]

記者:今でも、ですか?

なっちゃん:ええ。もう30年以上も前の話なのに(沈黙・約5秒)変ですよね。

記者:当時、何歳でしたか?

なっちゃん:8歳、小学2年生でした。


[00:01:15]

記者:神ちゃんとの出会いを覚えていますか?

なっちゃん:ええ、覚えてます。はっきりと。友達のユミちゃんが持ってきたんです。「これ、すごいよ」って。

記者:どんな印象でした?

なっちゃん:最初は……優しい漫画だなって。神ちゃんがいつも「だいじょうぶ」って言ってくれて(声が少し震える)本当に優しかったんです。すごく優しいものだったと思います。


[00:02:08]

記者:優しい、ですか。

なっちゃん:今思うと、違うのかもしれませんけど。でも当時は、救われたような気がして。

記者:救われた?

なっちゃん:(長い沈黙・約8秒)あの頃、お母さんが入院してて。


[00:02:45]

記者:それは……

なっちゃん:神ちゃんが「みてるよ」って言ってくれるたびに、本当に見守られてる気がしたんです。夜、病院から帰ってきて、一人で留守番してる時も(涙声)神ちゃんがいるから大丈夫だって。


[00:03:22]

記者:実際に声を聞いたことは?

なっちゃん:(即座に)ありません!(間)いえ、その(声が小さくなる)夢では、聞いたような気がします。

記者:どんな夢でしたか?

なっちゃん:神ちゃんが窓の外にいて、「おいで」って(突然黙る)


[00:04:01]

(グラスが倒れる音)

なっちゃん:あっ、すみません!

記者:大丈夫ですよ。

(紙ナプキンで拭く音・約15秒)


[00:04:23]

なっちゃん:続けても、いいですか?

記者:もちろん。無理はしないでください。

なっちゃん:実は、最終回のことなんですけど。

記者:最終回?

なっちゃん:みんな「なかった」って言うんです。でも私、読んだんです。確かに。


[00:05:02]

記者:どんな内容でしたか?

なっちゃん:(長い沈黙・約10秒)思い出せないんです。でも、読んだ後、すごく安心したのは覚えてます。「これでいいんだ」って。

記者:それはどういう……

なっちゃん:(遮るように)お母さんが退院したのも、その頃でした。奇跡的に回復したって、お医者さんが——


[00:05:48]

(携帯電話の振動音)

なっちゃん:あ、すみません(電話を確認)主人からです。もう帰らないと。

記者:最後に一つだけ。今でも神ちゃんのことを?

なっちゃん:(立ち上がりながら)時々、思い出します。特に子供が、娘が8歳になった時(声が途切れる)


[00:06:25]

記者:娘さんに見せましたか?

なっちゃん:(きっぱりと)絶対に見せません。

記者:それは何故?

なっちゃん:わかりません。でも、ダメなんです。それだけは(早口で)すみません、本当に行かないと。


[00:06:52]

(椅子を引く音、足音が遠ざかる)

なっちゃん:(振り返って)あの、

記者:はい?

なっちゃん:これ、あまり詳しく書かないでください。お願いします。


[00:07:15]

(ドアの閉まる音)

[録音終了]


記者の追記

インタビュー後、なっちゃんから1通のメールが届いた。


先ほどは取り乱してすみません。

一つだけ付け加えさせてください。

神ちゃんは、優しかったです。

でも、優しすぎました。


その後、返信を試みたが、

「このメールアドレスは存在しません」

というエラーが返ってくるのみ。

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